【実在したソ連の女性狙撃兵たちの物語】逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』あらすじ/感想/本屋大賞

第二次世界大戦時のソ連には、
狙撃兵やパイロットなど前線の兵士として戦った女性たちが実在しました。
そんな彼女たちの壮絶な物語。
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』
✅ 第19回(2022年)本屋大賞受賞作
✅ 第二次世界大戦時のソ連に実在した女性狙撃兵たちの物語
✅ 文庫本で580ページ越えの超大作
何となくタイトルを知っていただけの『同志少女よ、敵を撃て』。
文庫化されましたので、読んでみました。
・・・これは読んでおいた方が良い・・・。
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【実在したソ連の女性狙撃兵】
•リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリチェンコ
(1916年7月12日〜1974年10月10日)
・ソビエト連邦の軍人、狙撃手。最終階級は少佐。
・第二次世界大戦時、ソビエト赤軍が数多く登用した女性狙撃手の中でも、
確認戦果309名射殺という傑出した成績を残した史上最高の女性スナイパー。
・1943年にソ連邦英雄受賞。
・大きな戦果を上げ、前線を離れたパヴリチェンコは、英雄として扱われ、女子狙撃教育隊の教官として後進の指導に当たったが、赤軍はその名声を利用し多くの女性を新たな狙撃手候補として獲得していった。
・しかし、第二次世界大戦時に赤軍は約2000人の女性狙撃手を戦場に送り込み、多くが犠牲に。
終戦まで生き残れたのは、500人に満たないとされている。
⇨参照元:wikipedia-リュドミラ・パヴリチェンコ
「本当にいたの?」と思って調べてみたら、実在しておりました。
パヴリチェンコは本作の主人公ではなく、英雄としてちょっと名前が上がったり、
少しだけ登場するだけですので、知らなくても良いんですけど、
これから読み進めるなら、
「女性狙撃兵たちが実在した」という事実だけ知っておくと、
『同志少女よ、敵を撃て』をより深く楽しめるはずです。
ちなみに、
リュドミラ・パヴリチェンコの戦場での活躍を描いた戦争映画、
「ロシアン・スナイパー」(2015年)は、
Amazonプライムで配信されていますので、気になる方は再生してみてください。
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逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』
- セラフィマ:1924年生まれの少女。狩りの名手。愛称フィーマ
- エスチェリーナ:セラフィマの母親
- ミハイル:セラフィマの幼なじみ。愛称ミーシカ
- イリーナ:元狙撃兵。狙撃訓練学校の教官長
- シャルロッタ:狙撃訓練学校生徒。モスクワ狙撃大会優勝者
- アヤ:狙撃訓練学校生徒。カザフ人の猟師
- ヤーナ:狙撃訓練学校生徒。生徒の中では最年長
- オリガ:狙撃訓練学校生徒。ウクライナ出身のコサック
- ターニャ:看護師
- マクシム:第62軍第13師団、第12歩兵大隊長
- フョードル:同大隊兵士
- ユリアン:同大隊狙撃兵
- ボグダン:同大隊付き督戦隊
あらすじ
『同志少女よ、敵を撃て』あらすじ
1942年。
モスクワ近郊のイワノフスカヤ村に住む少女の日常は、
突如として終わりを告げた。
村で母親と半農半猟の生活を送っていた少女セラフィマは、
急襲してきたドイツ軍によって村人達を惨殺され、
自らも射殺される寸前、
赤軍兵士イリーナに救われるが、
赤軍は村人の死体を全て燃やしてしまう。
この時セラフィマは、2つの復讐を心に誓う。
1つは、
村を全滅させたドイツ軍への恨み。
そしてもう1つは、
村人を焼き尽くしてしまったイリーナへの恨み。
セラフィマの心は黒く燃え上がり、
復讐のためイリーナのもとで狙撃兵となることを決意する。
同じ境遇で戦うことを決めた少女達と共に訓練を重ねたセラフィマは、
やがて、
独ソ戦の決定的な転換点となったスターリングラードの前線へ。
おびただしい死の果てに、
セラフィマが目にした“真の敵”とは?
〜『同志少女よ、敵を撃て』〜
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おじさんの感想


タイトルは耳にしておりましたが、
文庫本のあらすじで内容を知っただけの状態から読み進めることになった『同志少女よ、敵を撃て』。
非常に面白かったですね。
しかも、
逢坂冬馬さんの作家デビュー作といった事実も驚きです。
舞台は第二次世界大戦時のソ連。
実在していた女性狙撃兵達を題材にし、その中の1人少女セラフィマを主人公とした物語です。
(女性狙撃兵達は実在しておりましたが、セラフィマは架空の人物のようです)
全てを奪われた少女が、
異様な復讐心を抱いて仲間達と狙撃兵になり、
戦争の悲惨さをこれでもかと叩きつけられた後に辿り着くことになった、
「本当に守るべきもの」と、
「自分が狙撃するべき本当の敵」に気付かされる圧倒的な重厚感と、
どうしようもなく悲しい物語なのに、
どこか納得できてしまう少量のスカッと感を読後に感じさせてくれる1冊でした。
物語の終盤、
「同志少女よ、敵を撃て」という文字を読んだ時、
久しぶりに味わいましたよ、
ブルっとくるような鳥肌が立つ感覚。
この感覚を味わえる小説は本当に少ないです。
物語に没頭していないと終盤でこうはなりませんし、
1文だけで読者の体に変化をもたらすことができる・・・、
ある意味伏線回収と言えるかもしれません。タイトルへ繋げる壮大な前振り。
私は本当に読んでよかったと、心から思っています。
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』、まだ読んでいないなら是非。
あと、
2001年の映画「スターリングラード」を覚えている方はいますか?
実在した狙撃兵達と、実話とされる事柄を基にした映画です。
ソ連側の狙撃兵をジュード・ロウ、ドイツ側の狙撃兵をエド・ハリスが演じていました。
この映画を視聴した方であれば、
『同志少女よ、敵を撃て』は間違いありません。
読み進めていく上で頭の中に想像していくのが容易になりますので。濃すぎるエド・ハリスの存在感にだけ気をつけていただければ、大丈夫かなと。
何はともあれ、『同志少女よ、敵を撃て』はおすすめです。
本屋大賞
「新刊を扱う書店(オンライン書店含む)の書店員」の投票によって選出される本屋大賞、
2022年の賞レースの結果は以下の通りです。
2022年・本屋大賞 | ||
順位 | 受賞作 | 著者 |
1 | 『同志少女よ、敵を撃て』 | 逢坂冬馬 |
2 | 「赤と青のエスキース」 | 青山美智子 |
3 | 「スモールワールズ」 | 一穂ミチ |
4 | 「正欲」 | 朝井リョウ |
5 | 「六人の嘘つきな大学生」 | 浅倉秋成 |
6 | 「夜が明ける」 | 西加奈子 |
7 | 「残月記」 | 小田雅久仁 |
8 | 「硝子の塔の殺人」 | 知念実希人 |
9 | 「黒牢城」 | 米澤穂信 |
10 | 「星を掬う」 | 町田そのこ |
翻訳小説部門 | ||
順位 | 受賞作 | 著者 |
1 | 「三十の反撃」 | ソン・ウォンピョン |
2 | 「自由研究には向かない殺人」 | ホリー・ジャクソン |
3 | 「クララとお日さま」 | カズオ・イシグロ |
超発掘本! | ||
「破船」 | 吉村昭 | |
ノンフィクション部門 | ||
「目に見えない白鳥さんとアートを見にいく」 | 川内有緒 |
『同志少女よ、敵を撃て』が、
第19回本屋大賞を受賞し、第11回アガサ・クリスティー賞も受賞、
第166回直木賞候補にもなったのは納得です。
ただ個人的に、
この中で読んだことのある小説が、
米澤穂信の「黒牢城」だけ・・・なんとも情けないお話で。
もう少し小説を手に取る回数を増やしたいな〜と思う次第でございます。
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最後に
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』を紹介させていただきました。
ここ最近読んだ小説の中では、ベストと自信満々におすすめできる1冊です。
手に取ってみても損はありません。
ですが、
いかなる理由があろうと、
戦争を讃美するつもりはありません。
この物語を英雄の物語と讃えるつもりもありません。
「実際に戦場で銃を手に取り戦った女性達」がいた事実を知り、
語られることのない歴史的な事柄に触れさせてもらった部分、
その点については『同志少女よ、敵を撃て』に感謝しております。
そしてもう1つ、読み物として、物語として、
本当に面白かった!
文庫本の580ページ越え、グイグイと読み進めてしまうと思いますよ。
ではまた。