直木賞作家:道尾秀介の『満月の泥枕』、ドロドロ感のないミステリー小説
最初、この文庫本の表紙を見た時、
なんの話だか全く想像できませんでした。タイトルも?でしたし。
文庫本の表紙に描かれているのは、
お祭りに参加している群衆の上に、龍がいて、
そのまた上に、サル顔のお面をした人間が、黄金の玉を掲げている感じ。
この表紙だと、作品タイトルの横に伊坂幸太郎と書かれていても違和感がない。
著者は道尾秀介です。
まぁまぁ違和感を感じながら読み進める羽目に・・・。
往年の道尾ファンの方達からすると、
ホラー要素のないほのぼのミステリー、後味が全く悪くない物語が合わないと感じる方がいるようですが、
私個人としては結構好きです。
道尾秀介の『満月の泥枕』
タイトルからも内容を読み取ることはできませんでしたね。
道尾秀介『満月の泥枕』あらすじと感想
『満月の泥枕』道尾秀介
『満月の泥枕』あらすじ
訳ありで、姪の汐子と下町で暮らしている凸貝二美男(とっかいふみお)。
二美男が交番に駆け込んだのは、
三国祭りの翌日、海の日の朝だった。「1人で酒を飲んで酔っ払って、真夜中に三国公園で寝てた。しばらくしてふと目を覚ました時、”とんでもないこと”が起きたのを目撃した」
その”とんでもないこと”とは、
二美男曰く、人が殺されて池に放り込まれた、とのこと。交番勤務のおまわりさん剛ノ宮からすれば、
朝のこの時間まで異様な酒の匂いを振りまいている二美男の目撃談を信じられるはずもなく、
ただ何もしないわけにもいかず、
シブシブ2人で、その殺されたであろう被害者宅である、剣道場へ訪問することにした。しかし、訪問先で待っていたのは、深まるだけ深まる謎。
殺されたと思っていた人間は生きているし、
剣道場では不可解な感じは一切感じなかったのに、後日、
事件の捜査をしてくれと子供が訪ねてくるし・・・。その子供、剣道場からやってきたタケル曰く、
「二美男さんが剣道場で目撃したのは僕の父で、池で目撃したのは僕のおじいちゃんだと思います。あの日の夜、明らかに不自然なやり取りがあったので真相を知りたい。だから、池を調べて欲しい。おじいちゃんの死体を見つけて、真実を僕に教えてください」そんなお願いを聞くことになった二美男は、
汐子と下町の知り合いを巻き込んで捜索を開始、結局、
とんでもないことに巻き込まれる羽目に・・・。〜『満月の泥枕』〜
全6章、約500ページほどの長編小説『満月の泥枕』。
この『満月の泥枕』に対するインタビューで、道尾秀介は主人公二美男についてこう語っています。
・道尾秀介のインタビュー
「二美男が自分に似ているとは思わないんだけど、とにかく二美男が大好き。今まで描いた中で、本が28冊出ているんですけど、1番ダメ男なのが二美男。でも人は良い。心の中90%を人情が占めていて、知識が5%、あとの5%に影の分からない部分がある。」
このインタビュー、『満月の泥枕』を読み終えていると、
妙にしっくりくるんですよね。ダメ男なのに憎めない。魅力的、とは言えないけど目が離せない存在、根底にある優しさ。
この感情的な部分は、姪の汐子が作中でわかりやすく読者に伝えてくれます。
道尾さんの想いが汐子の言葉となって表されている感じ、ではないでしょうか。
ホラー要素のないほのぼのミステリー、
道尾秀介の『満月の泥枕』
後味が悪くない物語です。
『満月の泥枕』を読んだ方達の感想
道尾さんの得意な分野。嘘が絡んだ人情噺、ドタバタがあったりちょっと危険な目にも合うけれど、最後は丸く収まった感じで、
カラスの親指やカエルの小指と同じような、ホロっと来るお話でした。
ミステリあり、アクションあり、感動あり、そして最後にちょっとしたどんでん返しというかネタバラシ要素もあるので、てんこ盛り大長編として楽しめます。
映画の原作になりそうな話でしたね。
アットホーム方面の道尾さんでした。キャラクターがたっていて、ドラマか映画のようです。
そのためか、お祭りとか坑道のアクション多めのシーンは、ちょっと動きが複雑で映像でないとわかりづらい感じかな・・。
でも、子供達が良かったですね。温かい気持ちになりました。
久しぶりに道尾さんの作品を読みました。ドタバタしながらもグイグイ引き込まれてしまいました。
甲斐性なしの二美男と、子供とは思えない汐子。
本当の親子ではないけれど、それ以上の愛を感じました。
ミステリーだけど人情味があって、ホロリときてしまいましたね。
おじさんの感想
初めて読んだ道尾秀介作品は「向日葵の咲かない夏」。
その時から道尾作品が文庫化されれば読み続けているので、ファンといえばファンなんですけど、
私がなんでも受け入れられるタイプなのかどうなのかは微妙なところ。
ですが、この『満月の泥枕』をスンナリと受け入れられた事を考えてみると、
往年の道尾ファンとは言えないのかもしれません。
上に載せたレビューはほぼ肯定的な意見を探して載せたんです。
という事は、その逆も結構あったんですよ。
否定的というか、道尾作品としては弱い、あまりこの作風は好きじゃないという意見、
あるにはあったんです。
ただ、私個人として、この『満月の泥枕』に対する否定的な意見はほぼありません。
だから私と同じようなレビューを載せさせて頂きました。
ブログ記事としてはどうかと思いますけど。
で、感想はというと、
道尾作品を初読みするなら『満月の泥枕』がオススメ、といった感じですね。
有名な「向日葵の咲かない夏」の印象を持っていない方に読んでみて欲しい作品です。
日常に非日常が絡んで起こるドタバタ。
大人が嘘をつくときは大抵利害関係や逃げるとき。
子供が嘘をつくときは大抵、身近な人のために純粋な気持ちから。
いつどこで、どのタイミングで変わってしまうんでしょうね?
と、ドタバタ劇を読み進めながらチョイチョイ考えていました。
後味の悪さがなく、ミステリーとしてドロドロしないし、物語として楽しみながら、
汐子が発する言葉に少し涙腺が緩くなってしまう、
そんな道尾秀介の『満月の泥枕』
1度、手にとってみてください。
直木賞作家:道尾秀介について
道尾秀介(1975年5月19日〜)は、
兵庫県出身の小説家、推理作家、歌手です。
これまでに直木賞候補となった作品は、
年 | タイトル | 直木賞候補・受賞 |
2009年 | カラスの親指 | 第140回直木賞候補 |
鬼の跫音 | 第141回直木賞候補 | |
2010年 | 球体の蛇 | 第142回直木賞候補 |
光媒の花 | 第143回直木賞候補 | |
2011年 | 月と蟹 | 第144回直木賞受賞 |
2009年、第140回直木賞で初候補となった「カラスの親指」から、
5回連続で直木賞候補となり、
2011年、「月と蟹」で第144回直木賞を初受賞。
5回連続で直木賞候補となったのは、戦後初記録だそうです。
デビュー作は2004年「背の眼」、第5回ホラーサスペンス大賞の特別賞を受賞して小説家としてデビュー。
その後もホラー系のサスペンスを世に送り出し、
2006年「向日葵の咲かない夏」を発表、これが大ヒット。
道尾作品の印象を植え付けた作品となりました。
ホラー系や後味の悪さのあるサスペンス系の印象が強まった感はありますが、
それだけじゃないよと思わせてくれるのが、
今作『満月の泥枕』です。
直木賞作家と聞くとちょっとお堅い印象を受けますけど、
道尾秀介にはあまり当てはまらないのではないかと。
タイトルからはなんの話か想像できない『満月の泥枕』、
読み進めてみてはいかがでしょうか。
最後に
ホラー要素のないほのぼのミステリー、
道尾秀介の『満月の泥枕』を紹介させて頂きました。
約500ページもある長いお話でしたけど、個人的には楽しめた作品、
ちょっと感動を覚えた物語でした。
よくよく考えてみるとですね、
道尾作品には不思議なタイトルの小説が多いですよね。
直木賞候補となった作品なんかだと、何1つとして内容が読み取れませんし。
読めば、あ〜なるほどな・・・となります?私の頭だと完全に理解するのは不可能。
想像をこねくり回して膨らませるしかありません。
タイトルから読み解くのは難しい、けれど、
道尾作品が文庫化されれば必ず読み進める、そんな風に道尾作品に取り憑かれているおじさんでした。
ではまた。
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