中山七里『ネメシスの使者』あらすじと感想、読み応え十二分です

2021年8月25日

日本の死刑判決
日本において死刑判決を宣告する際には、永山則夫連続射殺事件で最高裁(昭和58年7月8日判決)が示した死刑適用基準の判例を参考にしている場合が多い。
そのため永山基準と呼ばれ、第1次上告審判決では基準として以下の9項目が提示されている。

1.犯罪の性質
2.犯行の動機
3.犯行態様、特に殺害方法の執拗性、残虐性
4.結果の重大性、特に殺害された被害者の数
5.遺族の被害感情
6.社会的影響
7.犯人の年齢
8.前科
9.犯行後の情状

以上の条件のうち、たとえば4項では「被害者2人までは有期、3人は無期、4人以上は死刑」といった基準があるようにいわれるが、実際の判例では事件の重要性などに鑑みながら決定しており、被害者が1人のみの場合でも死刑の可能性は十分にありえる。

参照元:Wikipedia-死刑

軽々しく語れない死刑制度、過去に様々な議論が交わされてきたんでしょうけど、
いまだに明確な答えは存在していません。
そもそも人の生き死にを基準化するのも無理な話で・・・。

と、自分には関係ない話なんだろうと逃げていましたが、
この小説を読んで妙に考えさせられてしまいました。

中山七里の『ネメシスの使者』、

読み応えしかない社会派ミステリーです。

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『ネメシスの使者』あらすじと感想

ネメシスの使者あらすじ

平成25年8月、埼玉県熊谷市で起きた殺人事件の現場へ、
埼玉県警の渡瀬と古手川は覆面パトカーで向かった。

刺殺体となって発見されたのは65歳の女性。

そしてその遺体は、不自然な姿勢で右手を伸ばした状態になっており、
血塗れの指先が何かを壁に書いた後、力尽きたような格好になっていた。

壁に書かれている血文字横一列のカタカナ

ネメシス

ギリシア神話に登場する”復讐の女神”「ネメシス」、
この言葉とともに事件は深い闇の中へ落ちていくことになる。

刺殺体となって発見された女性は犯罪加害者の家族だった。
平成15年に起きた「浦和駅通り魔事件」の犯人の母親。
通り魔事件の被害者は2人の女性、当時19歳と12歳だった罪もない女性たちを、
無惨に殺した犯人の母親。
通り魔事件を起こした犯人の母親、犯罪加害者の家族。

その母親が「ネメシス」の言葉と共に刺殺体となって発見。

「浦和通り魔事件」の犯人は、極刑を望んでいた被害者遺族の願い虚しく無期懲役。
その復讐としてなのか、10年経った今、犯罪加害者の家族に何者かが刃を突き立てた。

犯罪加害者の家族被害者遺族死刑制度司法とは一体何か?
復讐の女神”「ネメシス」の意味するところとは?
事件はここから始まる

〜『ネメシスの使者』〜

日本における死刑制度を1回調べてみよう、
読後、そんな気にさせられる中山七里の『ネメシスの使者』。

死刑制度司法のシステム復讐という感情
被害者遺族の救われることのない永遠の時間と、犯罪加害者の家族が受け続ける苦しみ
気軽に読んでくださいとオススメできるような小説ではないですが、
読み応えは十二分にありますので、1度、手に取ってみてはいかがでしょうか。

 

 

『ネメシスの使者』を読んだ方達の感想

男性の声
男性の声
『ネメシスの使者』を読んだ感想

 

死刑制度という壮大なテーマを描いている作品です。序盤から重く鬱展開が続いていきますが、ラストの伏線回収がお見事。
長編だけれど一気に読んでしまい、非常に読み応えがありました。

 

男性の声
男性の声
『ネメシスの使者』を読んだ感想

 

他の作品でよく見た渡瀬警部目線の作品です。他の作品で読んでいた時は、超人的で何事にも動じないと思っていたけれど、この話を読んで今まで以上に身近に感じられました。
「どんでん返しの帝王」と書かれているので、どうなるかはそこからもなんとなく判ってしったけれど、面白かったです。

 

女性の声
女性の声
『ネメシスの使者』を読んだ感想

 

当然死刑と思われた犯罪者がそれを免れた時、被害者遺族の絶望はどれほどか。何者かがネメシス(復讐の女神)を語って加害者家族の殺害に及ぶと、世間には賞賛の声さえ出始めます。

加害者家族と被害者家族、刑事と検事に判事、それぞれの視点が、司法制度の不完全さを浮き彫りにしています。
犯人が暴かれた後、残りのページがやけに多いと思っていたら、
やっぱり隠されたドラマがありました。
中山七里作品でお馴染み岬検事に渡瀬・古手川刑事が登場して、
期待通りの司法モノですけど、死刑制度・・難しいですね。

 

男性の声
男性の声
『ネメシスの使者』を読んだ感想

 

死刑制度について考えさせられる1冊です。遺族の気持ちとして死刑に!というのも心情的にわかりますけど、渋沢判事の言うような死んで終わりではなくジワジワ殺していく懲役という考え方が、自分の考えには近いのかなと思いました。
にしても、まさか最後にあんな驚かせ方をするとは・・・。

怨嗟とは怖く根深いものなんですね。

 

おじさんの感想

おじさんの声
おじさんの声
『ネメシスの使者』を読んだ感想

 

(陳腐な言葉は意味をなさないが、必ず何かが残る小説

8.5

 

中山七里の小説は、文庫化すれば必ず読んでいるので、
慣れた気になってこの『ネメシスの使者』も気軽に購入、楽しもうとページをめくっていたんですけど、やられましたね。
「どんでん返しの帝王」も織り込み済みなのに、
結局また・・・。

 

読み始めて序盤、「ネメシス(復讐の女神)」という言葉が登場しますので、
ダークヒーロー的な復讐劇かと思いきや、
日本における死刑制度司法被害者遺族犯罪加害者の家族
そして、人間そのものが抱く感情
そう簡単に答えなんて見つけられない事柄の中にドップリとハマりまして、
気が付いたらもうすでにラスト。
いつもながら、時間を忘れて読ませてくれる作家さんですね。

 

ただ、『ネメシスの使者』を、
「面白い小説」として”面白いですよ〜”と紹介するのは軽すぎる感じがするし、
「死刑制度を真剣に考えよう」的な”一石を投じる小説”として紹介するのはカッコつけ過ぎですから、
読み応え十分な小説”としかオススメできません。
(”面白くて、考えさせられる小説”と紹介するには、死刑制度は重過ぎますからね)

 

と言いつつ、私は日本の死刑制度について調べてしまいましたけど・・・。
これがまた、明るい気持ちになれるような検索ではないという・・・。

 

読後、あなたがどのような感情になっているのかは想像し難いですが、
必ず何かしらの感情が渦巻いて残っていると思います。
それが死刑制度に対する感情なのか、被害者・加害者の家族達への感情なのか、
復讐に対する感情なのか、そして、人間そのものへの感情なのか。

 

中山七里の『ネメシスの使者』、
読み応え十二分な小説”です。

 

中山七里作品、その他おすすめ

中山七里(1961年12月16日〜)は、
岐阜県出身の小説家、推理作家です。

「さよならドビュッシー」で第8回このミステリーがすごい!大賞を受賞して、
48歳で小説家デビューした作家さん。

個人的にオススメな中山七里作品は、

概要タイトル
令和版「津山事件ワルツを踊ろう
中山七里版「ミッドナイト・ラン逃走刑事
悪魔の弁護人シリーズ第1弾贖罪の奏鳴曲
悪魔の弁護人シリーズ第2弾追憶の夜想曲
カエル男シリーズ第1弾連続殺人鬼カエル男
カエル男シリーズ第2弾連続殺人鬼カエル男ふたたび

悪魔の弁護人:御子柴礼司主演の法廷ミステリー、
カエル男シリーズなどはドラマにもなっていますし、
デビュー作「さよならドビュッシー」は映画化されていますので有名です。

残念ながら、映像化された中山七里作品は個人的に観ていないので、
なんとも言えませんけど、
原作小説なら読んでいますから、原作は手放しでオススメと言えます。

令和版の「津山事件」を描いたんですか?と勘繰ってしまった「ワルツを踊ろう」。
中山七里バージョンの「ミッドナイト・ラン」と感じさせられた「逃走刑事」。
この2作も、あまり有名ではないでしょうが、非常に楽しめた小説です。

中山七里をまだ未経験だというなら、
是非1度、手に取って読んでみてください。楽しめると思いますよ。

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【文庫本で読む】中山七里のおすすめ小説11選/シリーズもの、胸糞、痛快エンタメあり

 

最後に

 

中山七里社会派ミステリー
ネメシスの使者』を紹介させて頂きました。

死刑制度に関して軽々しく語る訳にはいきません。
なんとも言い難い事柄ですが、小説として”読み応え十二分”ですから、気になる方は手に取って欲しいと思います。
楽しめる!とは言いませんけど、何かが残る!とは言えます。

軽々しい答えなんか存在しない物語、考えさせられて深く思い詰めてしまう可能性のある小説、
そんな”読み応え十二分”な作品でよければ、
中山七里の『ネメシスの使者』を読んでみてください。

ではまた。

 

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