介護ビジネスに潜む悪意の螺旋!安田依央『ひと喰い介護』のあらすじと感想
『ひと喰い』
強烈なこの言葉、何を連想しますか?
私は、人間の血肉を喰らう恐怖を連想してしまいました。
『ひと喰い』という言葉から私が連想した恐怖
✅ 鬼、ゾンビ、などの人間を喰らう架空の存在
✅ 「ソニー・ビーン」、本当に存在したのかどうかさえハッキリしない、
スコットランドの伝説
✅ 「ハンニバル・レクター」、映画の中に存在している架空の人物
(モデルとなった人物が複数人)
✅ 獣害事件、熊やトラなどが引き起こした本当にあった事件
人間が被害にあったという点では、
本当に起きた獣害事件が恐怖の対象として最も連想しやすいんですけど、
『ひと喰い』という強烈な言葉からは、
架空の存在の方がしっくりくるのも事実です。
どこか遠い世界のお話というか何というか・・・。
ただ、残念ながらこの小説の『ひと喰い』後に続くタイトルは、
『介護』です。
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『ひと喰い介護』のあらすじと感想
『ひと喰い介護』安田依央
『ひと喰い介護』あらすじ
超一流の企業で働き、高度成長期を駆け抜け、
家庭を顧みず血眼になって働き続けてきた武田清。
すでに定年退職をし、
娘は幼くして他界、妻にも先立たれた武田は現在72歳。
一人暮らしになったとはいえ、
退職金に年金、資産運用の成果、親から相続した土地の賃料も入ってくるので、
お金には一切困っていない。
むしろ、使い道に困るほどの資産を持っている武田。
歳はとったが、まだまだ頭脳明晰という自負も持ち合わせていた。
しかし、武田の最期は、
悪意の螺旋に絡まってしまう。
最初の入り口は弁当だった。
「株式会社ゆたかな心」が参入している宅配弁当事業のサービスを、
試しに受けてみて、悪くない味の弁当を食べただけ。
次は、
「株式会社ゆたかな心」の代表取締役社長:香坂と少し話をしただけ。
そして、武田が右手首の骨折をしてしまい、
日常生活が不憫になった頃に、
「株式会社ゆたかな心」の高級老人サロン<クラブ・グレーシア>に、
少しの間、厄介になろうとしただけ。
弁当を食べてちょっと会話し、短期間だけサロン住まい、
たったそれだけで、
武田の最期は、介護ビジネスの悪意の螺旋と共に・・・。
〜『ひと喰い介護』〜
『ひと喰い介護』を読んだ方達の感想
読み進めている途中で、行き着く先が見えてくるんですけど、とにかく怖いです。人はこんなに冷酷になれんでしょうか?
期待していた介護小説とは違いました・・・。
将来、自分が介護する立場になったら・・・と考えさせられる物語です。逆に、介護される立場だとしても、それはそれでもっと恐ろしくなります・・・。
長生きってどうなんでしょうね?
体調が弱っている時に読むと最悪の読後感を残す物語です。
介護の名の下に老人を喰いものにする人々。
1人のサイコパスと自己顕示欲の強い人たらしが出会ってしまったために、善意を人を狂わせていきます。
本当に存在しているような気がして、怖すぎますね。
ただただ恐ろしい。
こんな悪意の塊みたいな人間が本当に存在しているのか!
お金のある老人を見つけたら、その老人が亡くなるまでむしゃぶりつくし、人としての尊厳など全く意に介さずに貶めます。
怖すぎます・・・。
介護施設は入所してからでないと、本当の意味での善し悪しは分かりませんね。
おじさんの感想
安田依央さんという作家も知らず、
強烈なタイトルだけで購入した『ひと喰い介護』、
タイトル通りの強烈なお話でした。
私が読後に感じたのは、
完全にあっち系。
「後味の悪い」「イヤミス」「胸糞」・・・良い感情が一切残らない物語でしたね。
恐怖感と同時に「後味の悪さ」をモロに。
一人暮らしで潤沢な資金を持っている高齢男性が、
自分の意思で行動しているとコントロールされながら、
最期は、悪意の螺旋に絡まり抜け出せなくなっているお話です。
しかも、「介護ビジネスの世界」で。
「介護ビジネス」を手放しで信じたい、高級なら尚更と思っていましたけど、
流石に『ひと喰い介護』を読んでしまうと、
その想いも打ち砕かれてしまいました。
全てではないんでしょうが、もしかすると中には存在している・・・、
恐怖感、不安感と言った方が近いですかね。
もし自分が入ることになる介護施設が「株式会社ゆたかな心」関連・・・、
背筋にブルっと何かが走ります。
そして「悪意の螺旋」が永遠に。
恐怖感を感じながら不安にもなって、読後は「後味が悪い」、
安田依央の『ひと喰い介護』、
強烈なタイトル通りの強烈なお話でした。
文庫の巻末特別対談で、安田さんは、
「司法書士としての実体験が元になっています。犯罪の仕組みなど細部は創作ですが、今もあちこちで起きていておかしくない事件でしょうね」
と語っています。
安田依央について
安田依央(1966年1月12日〜)は、
大阪出身の小説家、司法書士です。
主な作品に、
発行年 | タイトル |
2011年 | 「たぶらかし」 |
2012年 | 「終活ファッションショー」 |
2013年 | 「人形つかい小梅の事件簿1 恐怖のお笑い転校生」 |
2014年 | 「人形つかい小梅の事件簿2 恐怖!笑いが消えた街」 |
2015年 | 「出張料理・おりおり堂 卯月〜長月」 |
「出張料理・おりおり堂 神無月〜弥生」 | |
2017年 | 「出張料亭おりおり堂 ふっくらアラ煮と婚活ゾンビ」 |
「出張料亭おりおり堂 ほろにが鮎と恋の刺客」 | |
2018年 | 「出張料亭おりおり堂 コトコトおでんといばら姫」 |
2019年 | 『ひと喰い介護』 |
2010年「百狐狸斉放」(のちに「たぶらかし」に改題)で、
第23回小説すばる新人賞を受賞して、2011年に単行本として発表。
2012年「たぶらかし-代行女優業・マキ-」のタイトルでドラマ化、
谷村美月主演で日本テレビ系列の木曜ミステリーシアター枠にて、
2012年4月5日〜6月28日まで放送されました。
テレビドラマの原作小説にもなっている作品を生み出している作家さんです。
失礼ながら、私はこの『ひと喰い介護』で知りました。
タイトルが「闇介護」とか「悪質詐欺介護」とかだったら手に取った可能性は低かったので、
強烈な『ひと喰い』で良かったな〜と、
不思議な感覚になっています。
安田依央さんの次回作、楽しみですね。
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最後に
『ひと喰い』という強烈な言葉だけ切り取って、架空の存在を連想してしまいましたが、
その後に続くタイトルが『介護』だったもので、
さらに強烈さが増してしまい、
初読みの作家さんとか関係なく手に取った小説。
安田依央の『ひと喰い介護』を紹介させていただきました。
読後は「後味の悪さ」と「胸糞の悪さ」が押し寄せて、
なおかつ恐怖感と不安感に支配されてしまいますけど、
物語として読み応えのある小説でした。
この小説を読んで、
「介護ビジネスの世界」全てに嫌悪感を抱かないよう、祈っています。
「あるのかもな〜」ぐらいで。
ちゃんとしている介護施設の方が圧倒的に多いはず・・・です。
ではまた。
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