犬塚理人『人間狩り』あらすじと感想、横溝正史ミステリ大賞「優秀賞」受賞作
犬塚理人のデビュー作『人間狩り』、
初読みの作家さんになると思われますが、文庫化されていますので、
手に取りやすくなっています。
✅ 犬塚理人のデビュー作
✅ 2018年の第38回横溝正史ミステリ大賞「優秀賞」受賞作
✅ ジャンル➡️社会派ミステリ、現代社会の闇、警察モノ
✅ ボリューム➡️400ページ弱の長編小説
私にとっても初読みの作家さんだったんですけど、
タイトルに惹かれてしまい、興味が湧いたので読み進めてみました。
結構重い話でしたね。
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犬塚理人『人間狩り』のあらすじと感想
『人間狩り』犬塚理人
『人間狩り』あらすじ
20年前に日本中を震撼させた猟奇的事件、
「国分寺女児殺害事件」
東京の国分寺市にある病院の廃墟で、9歳の少女が惨殺された。
行方不明となった少女の両親の元に送り付けられた、少女の両目。
その後、両目をくり抜かれた状態の少女の遺体は発見される。
その残忍な手口から、日本中が知る事となった猟奇事件。
そして、
警察は少女殺害、死体遺棄の容疑で、
少女と顔見知りだった中学生男子を逮捕した。
少年A
彼の本名は落合聖司。
事件当時14歳だった落合の名前は公表される事なく、
少年法に守られながら、医療少年院に送られる事となった。
この凄惨な事件から20年が経った今、
「国分寺女児殺害事件」の殺害シーンを写した動画が、
ダークウェブ上で売りに出されてしまう。
一体誰が、何の目的でこの動画を売りに出したのか?
警視庁観察係の白石は、この動画をネット上に流した人物の特定に動き出す。
少年A、当時の名前は落合聖司。
彼はもう、名前を変えて社会復帰している。
なぜ今になって20年前の事件が蘇ってきたのか?
人の罪が消えることはないのか?
人が人を裁く連鎖を止めるのは不可能・・・。
〜『人間狩り』〜
『人間狩り』を読んだ方達の感想
設定も展開も面白く、新人作家さんとは思えない完成度でした。ラストの急展開にちょっとした違和感がありましたけど、楽しめました。
正義とは何か・・・、考えさせられました。
正義と言うけれど、何が正義なのか、正しいとはどういうことなのかを考えさせられます。
元少年Aは更生していたのか、ネットリンチは正義であれば許される行為なのか、自分が正義であると盲目的に思い込んでいないか、
考えることがたくさん出てきました。
デビュー作なのに綺麗にまとまっていて、とても読みやすく、話の筋も面白かったです。
でも、人物描写に物足りなさを感じてしまい、あまり感情移入はできなかったですね。
引き込まれてグングン夜更かしで一気読みしてしまいました。
まさしく現代を物語る話。見えない世界で形も実名もなく、悪も善もわからない世界で動くことほど怖いものはないと思います。
やるなら、実体を晒し色んな覚悟のもとでやらなければいけないことなのかと・・・。
随所随所に考えさせられる事があって、読み応えのある1冊でした。
次回作が楽しみな作家さんです!
おじさんの感想
パンチ力のあるタイトル『人間狩り』に惹かれて、
初読み作家さんの小説でしたけど、手に取り読み進めてみました。
『人間狩り』というタイトルが示しているのは、
物語の1部分のことで、
根底にあるのは復讐です。
家族を奪われた人間の時間はその時のまま止まり続けて、
加害者となった人間の時間はある時からまた動き出していく。
法のもとに法に裁かれ、罪を償ったとされた人間を許せないとして、
正義と言う名の元に私刑を下すのは果たして、本当の正義なのか?
そして、
家族を奪われ時を止められた人間が復讐しようとしているのを、
正義感ズラしてやってはいけないと止めるのは果たして、どこに正義があるのか?
結局、
遺族の心の痛みを他人が知ろうなんていうのは不可能です。
寄り添えるかもしれませんけど、同じ痛みを共有することはできません。
そこの差を、正義感という都合の良い言葉で埋めようとするんでしょうね。
私はこの『人間狩り』を読んで、
これから先、「正義」なんて言葉を軽々しく使わないと、強く思いましたね。
理路整然と真っ直ぐな意味を持つ言葉を使うのは怖すぎます・・・。
なんだか色々と考えさせられた小説でした。
犬塚理人について
犬塚理人(1974〜)は、大阪府出身の小説家です。
『人間狩り』が2018年に行われた第38回横溝正史ミステリ大賞で、
優秀賞を受賞し作家デビュー。
新人の作家さんですから、小説はまだ2冊です。
発行年 | タイトル |
2018年10月 | 『人間狩り』 (角川文庫より2020年11月25日から発売中) |
2020年2月 | 「眠りの神」 (KADOKAWAより発売中) |
2冊目の小説「眠りの神」は、安楽死をテーマとした物語のようです。
デビュー作『人間狩り』が読み応え抜群でしたので、
「眠りの神」も文庫されるのが楽しみです。必ず読みます。
横溝正史ミステリ大賞(2010〜)
「横溝正史ミステリ大賞」というのは、
株式会社KADOKAWAが主催し、テレビ東京の協賛により行われる日本の公募新人文学賞です。
2010年からの大賞作を抜粋してみると、
横溝正史ミステリ大賞 | |
回 | 大賞作 |
第30回(2010年度) | 「お台場アイランドベイビー」 (著者:伊与原新) |
第31回(2011年度) | 「消失グラデーション」 (著者:長沢樹) |
第32回(2012年度) | 「さあ、地獄へ堕ちよう」 (著者:菅原和也) |
第33回(2013年度) | 「見えざる網」 (著者:伊兼源太郎) |
第34回(2014年度) | 「神様の裏の顔」 (著者:藤崎翔) |
第35回(2015年度) | 受賞作なし |
第36回(2016年度) | 「虹を待つ彼女」 (著者:逸木裕) |
第37回(2017年度) | 該当作なし |
第38回(2018年度) | ※該当作なし |
※第38回横溝正史ミステリ大賞の大賞は「該当作なし」となっていますので、
必然的に「優秀賞」を受賞した『人間狩り』がトップです。
勝手に言ってしまっていますけど・・・。
第38回(2018年度)までが「横溝正史ミステリ大賞」という名称で、
この後からタイトルが少し変わりました。
横溝正史ミステリ&ホラー大賞 | |
回 | 大賞作 |
第39回(2019年度) | 該当作なし |
第40回(2020年度) | 「火喰鳥」 (著者:原浩) |
ちなみに、第39回の「優秀賞」は、
「血の配達屋さん」(著者:北海銀)となっています。
1981年から始まったこの賞は、
第1回(1981年)〜第20回(2000年)までが「横溝正史賞」
第21回(2001年)〜第38回(2018年)までが「横溝正史ミステリ大賞」
第39回(2019年)〜現在までが「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」
と、名称が少しずつ変わってきています。
犬塚理人の『人間狩り』は、
最後の「横溝正史ミステリ大賞」で評価された作品となりました。
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最後に
犬塚理人のデビュー作、
「横溝正史ミステリ大賞」の「優秀賞」を受賞した『人間狩り』を紹介させて頂きました。
初読みの作家さんでしたけど、
個人的には、これからも読み続けたい作家さんの1人になりました。
それぐらい濃い内容の『人間狩り』でしたね。
そろそろ新しい作家さんの小説を読みたいと思っているなら、
犬塚理人『人間狩り』はオススメできます。
決して明るくなれるような物語ではありませんが、
読み応えは抜群。
新人作家見つけた!感も味わえるのではないかと。
ではまた。
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