道尾秀介の小説「スタフ」、移動デリで働く女性の奮闘と痛み
つい先日、文庫化されていたので、
手に取って読み進めた「小説」です。
久々の道尾秀介作品だったので、
どんな物語なんだろうと、期待感を膨らませて立ち向かったんですけど、
いい意味で裏切られたし、
道尾秀介っぽくないなぁ〜と、不思議な感覚で読み進めていました。
道尾秀介っぽい、なんて、
勝手な思い込みで読み進めない方がいい物語、
「スタフ」を紹介します。
道尾秀介の小説「スタフ」
「スタフ staph」 道尾秀介
ネタバレをせずに、紹介します。
・夏都
ワゴン車で料理を売る移動デリを、1人で切り盛りしている、
バツイチの32歳、行動力のある女性です。
本当なら、元夫と2人で移動デリを営むはずが、夫の浮気、離婚となって、
移動デリのワゴン車と借金が残ってしまい、何かに没頭していないとやってられない!
そんな思いから移動デリを1人で営むことに。
そして、
夏都は中学生の甥っ子と2人暮らしです。
・智弥
海外赴任中の姉の息子、海外赴任へ付いて行かず、夏都と一緒に暮らすことに。
今時の中学生?らしく、
インターネットに詳しく、妙に頭のいい智弥、大人顔負けの頭脳の持ち主です。
夏都との2人暮らしは、裕福とは言えないがそれなり、
ドタバタではありませんが、波風立たないわけでも・・・。
そんな2人が、
妙なことから事件に巻き込まれていきます。
ある日突然、
夏都のワゴン車が、夏都ごと、さらわれてしまいます。
中学生アイドル・カグヤとそのファン達にさらわれた夏都とワゴン車。
誘拐と盗難が同時、アイドルとそのファン達の暴走、
なぜ夏都が・・・。
この妙な事件がやがて、
芸能界のイヤ〜な話へ発展、夏都と智弥の暮らしは徐々に波風が立ってきて、
結局、ドタバタしてきてしまいます。
そのドタバタの先、全てがハッキリとした時、
そんな所に着地させますか?
と、不思議な痛みを伴うラストで読者を悩ませる、
道尾秀介の「スタフ」、
道尾秀介っぽいなんて感覚を捨てて、読み進めてみてください。
道尾秀介「スタフ」を読んだ方達のレビューを、紹介します
・「スタフ」を読んだAさんのレビュー
あまり期待していなかったけど、手に取った時の印象よりだいぶ面白かったです。
謎解き要素もありつつ、身近な人への嫉妬や、家族にこちらを見てほしいという、
心の叫びに素直に向き合える作品です。
・「スタフ」を読んだBさんのレビュー
良い具合に先が気になり、途中クスクスとなるところもあり、
賢すぎる中学生にあまり現実味もなく、なんだか全体的にそんなに重くはないと思っていたのに、
終盤・・・切ないですね・・・。
・「スタフ」を読んだCさんのレビュー
冒頭から途中までは、ただちょっとありえないドタバタが描かれてるような感じで、
なかなか読み進め辛かったですね。
最後を読んで、少し怖いなと感じました。
自分で選んだはずの生き方が、もしかしたら誰かの意思でそうなっているかもしれないというのは、
ジンワリと怖いです。
・「スタフ」を読んだおじさん
道尾秀介の「スタフ」、
久しぶりに読んだ道尾秀介作品、
良くも悪くも不思議な「小説」でしたね。
道尾作品を数多く読んできたファンの方達の間でも、
相当賛否が別れそうな作品です。
道尾秀介っぽさが肌に染み込んでしまっているファンだと、
かなりの肩透かしを食らうでしょうしね。
本当に道尾秀介の「小説」か?なんて感じで。
今まで読んできた道尾作品の印象が邪魔をするかもしれません。
私もそんな感じで読み進めていました。
不思議な道尾作品だな・・・。
とはいえ、
しっかりとラストまで読ませて頂きましたし、
不思議な痛みを伴うラストに、何だか考えさせられました。
不思議な痛み、悲しさとムカつきです。
私がおじさんだからかもしれませんけど、受け入れられない部分と、
受け入れたいと思う部分と、何だか不思議な気持ちになったんですよね。
スッキリとした着地点ではありません。
モヤモヤとした、悲しくてムカつく着地点でした。おじさん的には。
ラスボスが誰よりも弱かった・・・。
そんなロールプレイングがあってもいいじゃない、
こう思えるような大人にはなれませんでした。
すいません、変な事を書いてしまいましたが、
おじさんですらこんな風に考え込ませる、
道尾秀介の「スタフ」、
賛否は別れますけど、パワーのある作品です。
ラストを読み終えた後、考え込ませる不思議なパワーを持った作品です。
道尾秀介の受賞・候補歴
道尾秀介(1975年5月19日〜)は、
兵庫県出身の小説家・推理作家です。
主な受賞歴、候補歴は、
年 | 受賞・候補歴 | タイトル |
2002年 | 第9回日本ホラー小説大賞短編集候補 | 手首から先 |
2004年 | 第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞 | 背の眼 |
2006年 | 第6回本格ミステリ大賞(小説部門)候補 | 向日葵の咲かない夏 |
第59回日本推理作家協会賞(短編部門)候補 | 流れ星のつくり方 | |
2007年 | 第7回本格ミステリ大賞(小説部門)受賞 | シャドウ |
2008年 | 第21回山本周五郎賞候補 | ラットマン |
2009年 | 第140回直木賞候補 | カラスの親指 |
第30回吉川英治文学新人賞候補 | ||
第62回日本推理作家協会賞 (長編及び連作短編集部門)受賞 |
||
2009年 | 第141回直木賞候補 | 鬼の蛩音 |
第22回山本周五郎賞候補 | ||
2010年 | 第142回直木賞候補 | 球体の蛇 |
2010年 | 第12回大藪春彦賞受賞 | 龍神の雨 |
第31回吉川英治文学新人賞候補 | ||
2010年 | 第23回山本周五郎賞受賞 | 光媒の花 |
第143回直木賞候補 | ||
2011年 | 第144回直木賞受賞 | 月と蟹 |
念願だったのかどうかは分かりませんけど、
5回連続で直木賞候補となっていて、ようやく「月と蟹」で144回直木賞を受賞しています。
道尾秀介作品といえば、
ホラーミステリー系の「小説」が有名です。
「背の眼」、「向日葵の咲かない夏」などで強烈な印象を残しています。
今回紹介した「スタフ」は、
この感じからは全く別の場所に位置している「小説」です。
ホラー感無し、日常と非日常が入り乱れて、不思議な痛みを感じさせる作品です。
勝手なイメージ通りにはいきません。
道尾秀介の「スタフ」、
挑戦してみてください。
最後に
道尾秀介の「小説」を紹介したのは、
この「スタフ」で3回目です。意外と少ない気がします。
「背の眼」から始まっている「真備シリーズ」などは、
ホラーミステリーですので、読みやすいし楽しいんですけど、
文学的な匂いのする作品も多いので、
何でもかんでもおすすめです、とは言えないのも事実です。
悪い意味ではないんですけどね。
その点、
この「スタフ」は読みやすいです。
頭の中に想像しながら読み進められる作品です。結構ドタバタとしていきますしね。
ただ、
不思議な痛みを感じるラストだと、覚悟をしておいて頂ければ、
後悔しないはずです。ちょっと痛いだけで。
道尾秀介の「スタフ」、
読んでみてください。
ではまた。
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