「偶然」を作り出す会社を描いた、七尾与史の長編ミステリー
昨日の夕飯はカレー、
今日、昼にたまたま入ったレストラン、
店の一押しはカレー、
そんな「偶然」はよくある事ですね。
ほんの少しだけ凹みますけど。
「偶然」に起こった事
例えば、
朝の通勤電車、たまたまいつもと違う車両に乗ることになり、
人の波を掻き分けてグイグイ乗り込んで吊り革につかまった瞬間、
隣の吊り革に親友がしがみ付いていたり、
いつも寄っているコンビニで、いつも飲んでいるコーヒーが売り切れていて、
たまたま違うコーヒーを買って飲んでみたら、不思議と美味しくて、
以後そのコーヒーばかりを買うことになったり、
「偶然」に「偶然」が重なると、結構不思議なことが起こりますよね。
そんな「偶然」ならいつでも大歓迎です。
イヤな思いをしているわけではないですし、結果的に楽しくなりますから。
朝のキツイ通勤が、親友の登場で笑って電車に揺られる楽しい時間になりましたし、
さらに美味しいコーヒーを見つけることが出来た訳ですから、
良い「偶然」は何回でも起こしてください、そんな気持ちになります。
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その「偶然」は、本当に「偶然」だったのか?
もし、この2つの出来事が、
「偶然」ではなく、仕組まれた罠だとしたら、一体どうなんでしょうか。
あの朝の通勤時間、いつも乗る車両の乗り口に並んでいた人達、
いつも以上の人数でした。だから少しでも空いている車両の乗り口に並んでみたんです。
これが普段通りの混み具合なら、私は親友に会うことはありませんでした。
楽しい通勤時間にはなっていません。
あの日のコンビニ、いつも買っていたコーヒーが売り切れていなければ、
今でもそのコーヒーを私は飲み続けていたと思います。新しい発見は有り得ませんでした。
そんな「偶然」を作り出している第3者がいるとしたら・・・。
親友に会わせるために、違う車両に乗せる「偶然」を作り出す、
新しいコーヒーを発見させる「偶然」のために、いつものコーヒーを売り切れにする、
今回紹介するのは、仕事として「偶然」を作り出してしまう人達の小説です。
作品紹介
「偶然屋」 七尾与史
ネタバレせずに、紹介します。
弁護士試験に挫折して就職活動中の女性、ある日、電信柱に貼られていた求人広告をたまたま見つけます。「オフィス油炭」、藁にもすがる思いで連絡して、面接の場所に指定されたのは、なんと錦糸町のパチンコ屋。
パチンコ屋で面接するという胡散臭さに加えて、仕事は「アクシデントディレクター」という、これまた胡散臭い仕事、それでもとついつい始めてしまった女性。
「アクシデントディレクター」として、「偶然」を作り出すことは出来るのか、
七尾与史が送る、予測不能の長編ミステリーです。
七尾与史の小説
ブラックユーモアミステリーの名手、
なんて小説の帯に書かれる七尾与史、読んでいて楽しい作品が多いです。
以前にも書かせていただきましたが、彼の作品は肩の力を抜いて読むのに最適です。
「このミステリーがすごい!」大賞関連の作家さん、私はそれで知る事になり、今まで読み続けています。単純に楽しめるし、読み終わった後に凹むこともありません。
明るくてミステリータッチの小説が読みたい、
こんな思いがあるなら、この七尾与史はオススメです。
あまりオススメ出来ない人もいます
ただ、不向きな人もいると思います。
本格ミステリー好きには、あまりオススメ出来ません。
決して、ツマラナイわけではありませんが、
七尾与史独特の世界観は受け付けられない可能性がありますのでね。
ブラックユーモアミステリーです。真剣に向き合おうとすると拍子抜けしてしまいます。
読もうと思ってせっかく購入したのに、自分の好みと違っていたら悲惨ですからね。
本格ミステリーも好きだけど、楽しく笑いながら読み進められるミステリーも大好物、こんな方だけにオススメです。お気をつけください。
最後に
一体今までに、私は何冊、七尾与史の小説を読んできたのか、
ちょっと調べてみました。
結果、
ほぼ全てでした。文庫化されている小説全てです。
これからも、七尾与史の新作が出れば、間違いなく読み続けますよ。好きな作家の1人ですからね。
好きな作家になった「偶然」が「このミステリーがすごい!」大賞、
この「偶然」が奴らの仕業ではないことを、私は祈っています。
仮に「偶然屋」の仕業なら、いい仕事したなと、
一応、褒めますけどね。