中山可穂の圧巻ノワール小説『ゼロ・アワー』、少女の悲しい復讐劇です
初めて読んだ作家さんの作品です。
文庫の帯に記載されている、
「圧巻のノワール」という文章。
「ノワール」というのは、
フランス語で「Noir」(ヌワール、ノワール、ノアール)、
「黒」という意味を持っています。
「裏、闇」みたいな使い方もされますので、
「圧巻の裏社会」的な解釈も強引にしてしまってもよろしいかと。
家族を殺された1人の少女が殺し屋になり、
復讐を願い続けるノワール小説、
中山可穂の『ゼロ・アワー』、
ちょっと悲しい話でもあります。
中山可穂のノワール小説『ゼロ・アワー』
『ゼロ・アワー』 中山可穂
『ゼロ・アワー』あらすじ
「一家全員、皆殺しにすべし」
と命令された殺し屋のハムレット。
4人家族が暮らす家に忍び込み、正確に、そして冷酷に仕事をこなしていく。
そんな中、10歳の少女だけが合宿へ行っていたので、助かる事に。
他の家族を全て失った新垣広海は、
1度も会った事がない、アルゼンチンに住む祖父に引き取られる。
祖父の助けを借りて、美しく成長していく広海。
祖父の助けを借りて、美しい殺し屋に成長していく広海。
彼女の願いは、
ハムレットへの復讐。
美しく儚い殺し屋となった広海と、
伝説的な殺し屋として名が刻まれているハムレット、
2人のリズムが重なり合う時、
復讐が踊り出す。〜『ゼロ・アワー』〜
・ハムレット(殺し屋)
依頼された仕事を確実にこなしていく、凄腕の殺し屋でタンゴの愛好家。
今回も、新垣家に忍び込み、確実に仕事をこなしていました。
しかし、新垣家にいるはずだった10歳の少女の姿がなく、一家全員を殺す事は出来ずに、
新垣家が飼っていた猫のアストルを連れ去る事に。
殺し屋とアストルの奇妙な暮らしがスタートします。
・新垣広海(にいがきひろみ)
新垣家4人家族の生き残り。10歳の少女です。
アルゼンチンに住む祖父に引き取られて、どんどん美しく成長していきます。
そして、家族の仇が殺し屋ハムレットだと知り、
自ら裏社会へ身を投じる事になっていきます。
アルゼンチンでタンゴを学び、言葉の壁を乗り越え、復讐の為に殺し屋の道を。
コードネーム:ロミオと名乗る美しい殺し屋となった広海。
家族の仇であり、
復讐の対象でしかなかったハムレット。
広海は奇しくも、ハムレットと共通点が生まれてきてしまいます。
同じ殺し屋になり、タンゴの世界を知る。
そして、
新垣家の飼い猫だったアストルは、今、ハムレットの飼い猫。
裏社会で生きるハムレットと広海(ロミオ)、
復讐、タンゴ、アストル、様々な因果によって引き合う事に。
アストルの居場所は最終的に1つです・・・。
中山可穂のノワール小説『ゼロ・アワー』、
ハードボイルド臭のする、悲しみを背負った少女の物語です。
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ノワール小説『ゼロ・アワー』を読んだ方達のレビューを、紹介します
・『ゼロ・アワー』を読んだAさんのレビュー
最初は単なるスナイパーの話かと思いましたが、
人間臭いドラマも散りばめられていて、とても面白かったです。
タンゴの知識はゼロだけど興味が持てて、こういうのが本の醍醐味ですね。
良い本でした。
・『ゼロ・アワー』を読んだBさんのレビュー
疾走感のあるハードボイルド?ノワール?
この手の作品としては、頭使わず楽しめたのは久しぶりでした。
広海がジャンキーになってしまうのは興醒めしましたが、
登場する猫のアストル(一番、ハードボイルド臭が)や、タンゴ・ダンスが程よいアクセントになっていて、
楽しめました。
・『ゼロ・アワー』を読んだCさんのレビュー
堪能しました。
タンゴもシェイクスピアも無知ですけど、
なのにこれほどのめり込む描写ってすごいですね。
終始先が気になる展開でありながら、じっくりと味わえます。
突き詰めて破壊的な様々な愛を見せつけられました。
・『ゼロ・アワー』を読んだおじさん
恥ずかしながら、全く知らなかった作家さんの作品でした。
なんとなく、タイトルと、ちょっとしたあらすじで読んでみようと思い、
手に取った小説です。
ハムレットにロミオ、殺し屋ですから、ちょっとアレな感じはしていたんですけど、
読み易いし、スピード感があって、楽しめましたね。
簡単に言ってしまえば、
少女の復讐劇です。
成長していく過程で、殺しの技術を学び、家族の仇と同じ殺し屋となって、
復讐しようとする物語。
その中に、アルゼンチン・タンゴの調べと、少女の抱えてきた苦しみ、
裏社会の人間模様が絡み合ったノアール小説、
『ゼロ・アワー』、映画を観ているように楽しめる作品となっています。
ただ、
読み易くてスピード感はバッチリなんですが、
ラストに向かう展開が少し早過ぎてしまい、アレよアレよと、気付いたら決着シーン、
怒涛の如く描かれていくラストに、
少し面を食らってしまうかもしれません。
唐突に終わった感があるんですよね。
個人的には好きなんですけど、
オススメするなら、
深町秋生や馳星周のハードボイルドがキツ過ぎて、もうちょっと軽いハードボイルドを読みたい方、
復讐の行く末に、ちゃんとした決着が付く物語を読み進めたい方に、
この中山可穂の『ゼロ・アワー』をオススメさせて頂きます。
映画のように楽しんでみてください。
中山可穂について
中山可穂(1960年〜)は、
愛知県出身の小説家です。
主な作品は、
発行年(文庫化) | 発行元 | タイトル |
2000年 | 集英社文庫 | 猫背の王子 |
2001年 | 天使の骨 | |
2003年 | 白い薔薇の淵まで | |
2004年 | 花伽藍 | |
2009年 | 文春文庫 | ケッヘル |
2010年 | 角川文庫 | サイゴン・タンゴ・カフェ |
2019年 | 徳間文庫 | ゼロ・アワー |
1993年、マガジンハウスに持ち込んだ「猫背の王子」でデビュー。
1995年、「天使の骨」で第6回朝日新人文学賞を受賞。
2001年、「白い薔薇の淵まで」で第14回山本周五郎賞を受賞。
2002年、「花伽藍」で第127回直木賞候補。
初めて読んだ作家さんなので、
私には情報量が不足しています。調べた情報しかありません。
作品は主に、「恋愛」がテーマになっているものが多いようです。
「同性愛」を描いている作品も有名なようで、
その他にも、「家族愛」や「人間愛」をテーマにした作品も数多く発表しています。
『ゼロ・アワー』を読んでしまうと、
ハードボイルド系の作品を書いている作家さんと思いがちですが、
そうではないようですね。
むしろ、『ゼロ・アワー』が中山可穂の作品の中で異質であって、
これぞ中山可穂!とはならないみたいです。
中山可穂の持っている色を活かしたハードボイルドで、
前からのファンが多少面食らいながらも、楽しめた作品、
そういった声が多かった作品です。
中山可穂の作品を読んだ事のない方でも、
『ゼロ・アワー』は、映画を観るように読む進められるノワール小説となっていますので、
是非1度、手に取ってみてください。
私は初中山可穂で、楽しませて頂きました。
最後に
ハムレットとロミオで若干、どうかなと思っていましたが、
読み進めてみると、スピード感があって、ほぼすぐに読み終えてしまった作品、
中山可穂のノワール小説『ゼロ・アワー』を紹介させて頂きました。
他の作品を読んだ事がない作家さんでしたので、
ちょっとだけ不安でしたけど、
十分に楽しめる小説でしたね。
少女の悲しい復讐劇、
純粋に物語を楽しんで欲しいと思っています。
ハムレットとロミオで中二病を拗らせている、なんて事はありませんから、
安心して読み進めてみてください。
ではまた。
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