『すみれ屋敷の罪人』、「このミス!」大賞を受賞した降田天による回想ミステリー
初めて読む作家さんでした。
「このミステリーがすごい!」大賞関連の作品という事で購入。
最初、読み始めた時は、
「横溝正史」臭が漂ってきそうな雰囲気でしたけど、
読み進めていくと、その匂いがキツくなる事はなく、気付いたらラスト・・・。
読者も一緒になって「回想」していって、
ミステリーが解き明かされていくほどに切なく、深過ぎる人の想いに触れる小説です。
第13回「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作、
「女王はかえらない」の降田天が描く「回想ミステリー」。
回想ミステリー『すみれ屋敷の罪人』
『すみれ屋敷の罪人』 降田天
『すみれ屋敷の罪人』あらすじ
長い間、人の手が及ばない、記憶の大部分が消えかかっていた戦前の名家・旧紫峰邸。
その敷地内から、記憶を刺激するように白骨死体が2体発見される。
かつて紫峰邸に住んでいた主人、
3人の美人姉妹、
屋敷のお手伝いをしていた女中、使用人達の記憶が白骨死体とともに呼び起こされる。
華やかで品のある生活を送っていた紫峰一家。
忍び寄る戦争の足音と、突然起きた不穏な事件。
白骨死体が呼び起こした記憶に隠されている真実は・・・。
少しずつ少しずつ、記憶を辿っていき、
そして新たに発見された3体目の白骨死体、追加されていく真実の記憶。
無色透明となりつつあった旧紫峰邸の記憶に、
様々な色が足されていく。
全ての記憶が呼び起こされた時、
人の想いの強さを知る。〜『すみれ屋敷の罪人』〜
「第一部 証言」、「第二部 告白」と二部構成になっています。
旧紫峰邸で見つかった3体の白骨死体。
その白骨死体は一体誰なのか?
かつての紫峰邸に何があったのか?
3人の美人姉妹達は・・・。
「第一部 証言」で、
消えかかっていた記憶を呼び起こしていき、
「第二部 告白」から導き出される1つの真実。
昭和の戦前から戦後、
紫峰邸に仕えていた使用人、女中達の記憶からある真実を導き出す「回想ミステリー」。
降田天の『すみれ屋敷の罪人』、
人の記憶、その想いの強さを強烈に感じさせる小説です。
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『すみれ屋敷の罪人』を読んだ方達の感想を、紹介します
人に対する想い、家族に対する愛情が詰め込まれた作品でした。
ミステリーなのに、ストーリーに綺麗な流れがあり、
最後には涙しました。
切なく優しいお話です。
大事な方を守るためにつく嘘、悪事。
愛とは美しいものですが、時には恐ろしくも感じます。
第二章からの真実が急で驚きましたけど、読んで良かったと思える素晴らしい物語でした。
装丁の雰囲気そのままの、美しくも儚い物語です。
大切な人を思う気持ちから嘘をつき、嘘を守り通す事で悲劇が・・・。
一部の証言の章から二部の告白の章へ、ページを繰る手が止まりませんでした。
火曜サスペンス劇場を見たかのような読後感。
ありがちなパターンではあるけれど、良く練られた内容で面白かったです。
今の時代では考えられないが、昔の主従関係は深い結びつきがあったのだなと、思いを巡らしてしまいました。
降田天を初読みしたおじさんの感想
「このミステリーがすごい!」大賞関連の小説という事で、
著者も知らずに購入した小説でした。
結果的には大満足です。
上にも書きましたが、
私の読み初めの印象は「横溝正史」タイプのおどろおどろしいお話といったスタート。
お金持ちの旧家、使用人がいるようなお屋敷、
3人の美人姉妹、優しく娘想いの主人、
そして、唐突に訪れる悲しい事件、戦争の足音と、紫峰邸の終わり。
華やかだったお屋敷に住む者はいなくなり、
数十年の時を経て発見された白骨死体。
その白骨死体の発見から始まる物語、
紫峰邸の記憶を調べる探偵役の登場人物、
「横溝正史」の「紫峰家の一族」的な印象を受けてしまいましたね。
ですが、この発想は全くの間違いでした。
(そういった場面があるにはありますけど)
凄惨な殺人事件が連発するような、財産目当てに人が集まってくるようなお話ではなく、
悲しくも切ない、明らかになればなるほどに色彩を帯びてくる真実、
人の想いの強さ、その記憶を呼び起こして1つの物語を作っている回想ミステリーです。
古い時代背景を基に、謎めいた殺人事件と謎めいた犯人が出てくる事はありません。
読後、過去に埋もれそうになっていた真実の記憶を紐解いて、
本当は隠し通したかった想いもあるでしょうが、
全てが明らかになって救われる人もいるんだろうな、という、
なんとも不思議な感覚になっていました。
人が死んでいるので不謹慎かもしれませんけど、私はホッとした感覚で読み終えた作品です。
収まりの良い感覚というか、スッキリしたというか・・・。
何年、何十年と時間が経っても、
色褪せない、強烈に輝き続ける人の想いの強さがあるんだなと思わせてくれる小説、
降田天の『すみれ屋敷の罪人』、
初読み作家さんでしたけど、読んで良かったと思える作品でした。
降田天について
降田天(ふるた てん)は、日本の小説家、推理作家です。
この降田天というのはユニット名みたいなものです。
(「キン肉マン」のゆでたまごを思い浮かべて頂ければ分かり易いかと)
萩野瑛(はぎの えい)と鮎川颯(あゆかわ そう)が小説を書くために用いている筆名の1つ。
共同で使用しているペンネームという感じですかね。
降田天以外にも、
鮎川はぎの、高瀬ゆのか、という名義もあるそうです。
萩野瑛(1981年9月〜)、
鮎川颯(1982年3月〜)、女性2人が協力し合い、降田天名義で発表している小説は、
発行年 | 発行元 | タイトル |
2016年 | 宝島社文庫 | 女王はかえらない |
2017年 | 宝島社 | 彼女はもどらない※ |
2019年 | KADOKAWA | 偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理 |
2020年 | 宝島社文庫 | すみれ屋敷の罪人 |
※2016年に発表されている「匿名交叉」を改題して、
「彼女はもどらない」へ。
2014年「女王はかえらない」で、
第13回「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞。
2人は大学の同級生、東京で共同生活をしながら執筆活動をしています。
萩野さんが物語の大筋を考えて書き、2人で登場人物の心情を語り合いながら、鮎川さんが執筆しているらしいです。
まさに共同制作をして物語を生み出し続けている作家さん達です。
2018年「偽りの春」で、
第71回日本推理作家協会賞を受賞(短編部門)。
ちなみに、
私のようなおじさんには「キン肉マン」はど真ん中なので分かるんですけど、
「ゆでたまご」を知らない方へちょっとだけ説明しますと、
漫画家のユニット名なんです。1人ではありません。
嶋田隆司と中井義則の合同ペンネームが「ゆでたまご」となっています。
降田天を調べて、2人で共同制作、1つのペンネームを使っていると知り、
即、「ゆでたまご」を連想してしまうあたり、
私が完全におじさんだと改めて確信しましたね。
漫画家では「ゆでたまご」、
小説家として共同ペンネームは聞いた事がなかったので、降田天、ちょっとビックリでした。
最後に
個人的には初読み作家さんだった降田天の「回想ミステリー」、
『すみれ屋敷の罪人』を紹介させて頂きました。
タイトルからも読み取ろうと思えば読み取れる、
「横溝正史」臭ですけど、作品自体を読み進めても、そんな匂いはほとんど感じませんので、
安心して手に取ってみてください。
本当に少しだけ、脳裏をチラつくぐらいですので。
降田天という作家がユニット名だと知られたし、
これから新作が出版されれば、読んでみようと思える作家さんが増えたので、
『すみれ屋敷の罪人』を読んでおいて良かったなと。
まだ降田天の世界に触れていないなら、この機会に是非。
ではまた。
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