『人間に向いてない』、メフィスト賞を受賞した強烈な「親子の物語」
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2018年、第57回メフィスト賞を受賞した黒澤いづみの『人間に向いてない』。
タイトルも強烈ですが、
表紙に描かれている絵も強烈でおぞましく、気持ち悪さをビンビンに感じてしまうので、
手に取るのを躊躇してしまってもおかしくないんですけど、
人間には変な好奇心が備わっていて・・・。
「怖いもの見たさ」
この小説の場合、
「怖いもの読みたさ」、ですね。
強烈なインパクトで目に飛び込んで来る表紙、
タイトルは『人間に向いてない』。
ホラー小説?凄惨な殺人ばかりが起こるサスペンス?
表紙とタイトルから読み取れるのは負の感情ばかりなんですが、
読み進め初めて、物語をしっかりと完結させた頃、
負の感情はほとんど残っていませんでした。強烈な「親子の物語」にチラッと感動すら・・・。
メフィスト賞受賞作『人間に向いてない』
『人間に向いてない』黒澤いづみ
『人間に向いてない』あらすじ
数年前から突如として発生した奇病「異形性変異症候群」、
別名ミュータント・シンドローム。
人間がある日突然、
異形の姿へ変わり果ててしまう恐ろしい病。
このミュータント・シンドロームが初めて確認されたのは関東地方の某所。
しかし、
瞬く間に全国各地で症例が確認されて、47都道府県全てで報告されるようになった。
この病の特徴は、
感染症ではなく、一時的な症状とは言えない不治の病、
患者が若年層に集中している事。
政府はこの事態を重く受け止め、ミュータント・シンドロームを発症した若者を、
人間としての死、死亡したとみなす法律を作る。
主に異形へ変化してしまっているのは、
引きこもりやニートと呼ばれる若者。
昨日の夜までは普通の姿形だった若者が、朝になると突然、異形の姿へ・・。
その姿はほぼ気味が悪く、グロテスクで、人間だった頃の面影を奪い去ってしまう。
人間の赤ん坊サイズの虫、ハエ、アリ、イモムシ、クモ、そして犬のような。
姿は様々だが、ミュータント・シンドロームにかかった我が子を目にした親が、
我が子とは思えず嫌悪感を抱いてしまうのは致し方ない・・・。
法的には死亡とされるミュータント・シンドロームを発症した我が子、
姿は気味の悪い大きな虫、それでもまだ生きているのは事実。全国各地でこのミュータント・シンドロームに苦しめられる親子が続出。
そして今日、
美晴の息子優一が異形のモノへと姿を変えてしまった。
この「親子の物語」は少し違った結末を迎える。
なぜなら、
美晴は最後まで優一を「生きている」と確信していたから。
おぞましいイモムシのような姿になっていようと、「優一は生きている」。〜『人間に向いてない』〜
第57回(2018年)メフィスト賞受賞作、黒澤いづみの『人間に向いてない』。
強烈な「親子の物語」です。
自分の子供がある日突然、グロテスクな見た目の大きな虫のような姿に変わっていたら、
それまでと同じように我が子として接する事が可能でしょうか?
見た目は完全に虫、意思の疎通は不可能・・・。
全国では、家族がその異形の姿を受け入れられず、殺してしまうケースもある中で、
この病気に抗う、ではなく、
この病気を受け入れ、共に生きていくと腹を括った強烈な「親子の物語」。
『人間に向いてない』。
レビュー評価も高い作品です。
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『人間に向いてない』を読んだ方達の感想を、紹介します
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素晴らしいエンターテイメント!!非常に面白かったですね。
変異体側からの視点もあって、物語を堪能できました。
表紙に描かれている親子も衝撃的で・・でもピッタリですね。
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ホラーかと思いながら、そして気持ちの悪い話かと思っていました。
けれど、親として人として考えさせられる作品でした。
引き篭もった子供を持つ親たちに是非読んで欲しい作品です。
ちなみに、私自身も人間に向いてないかもしれません。
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読み始めた当初は、この小説に出て来る症候群の描写に少し気持ち悪さを感じていましたが、
家族の情、愛、関係性など多岐にわたる問題について色々考えさせられる内容でした。
評価が高いのも頷けます。
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嫌というぐらい強烈に胸に残るストーリーでした。優一の人生に同情してしまいます。
母の日のために作った物をいらないなんて・・・大事な子供からの贈り物をそんな風に言えるのか?
この病気は親への罰とも、本人の怠情から起こるものとも取れます。
高齢化問題が取り上げられる事が多い世の中ですが、高齢両親と未婚の子という核家族も増加しています。
向き合う必要性に気づいた時には遅いなんて事もあるかもしれません。
取り立てて印象的だったのは、変異者の気持ちが溢れて出ている章。
胸が締め付けられてしまいましたね。
『人間に向いてない』を読んだおじさんの感想
![おじさんの声](https://savicevicjenio.com/wp-content/uploads/2019/02/IMG_0209-264x300.jpg)
![おじさんの声](https://savicevicjenio.com/wp-content/uploads/2019/02/IMG_0209-264x300.jpg)
冒頭にも書きましたが、
この『人間に向いてない』を読もうと思った経緯は、
タイトルと、文庫の表紙に描かれている絵です。インパクトが強すぎます。
母親の美晴が、異形のモノへ変異した我が子を発見する物語の冒頭、
SFチックなホラー作品かと少し不安になりましたが、
1章、2章と読み進めていくうちにその感情は薄れていきましたね。
美晴の揺れ動く想い、それでも異形のモノとなった我が子を最後まで見限る事なく、
母親としての強烈な強さを読者に叩きつけてくるような・・・。
強烈な「母親の物語」なのかと思いながら読み進めていき、
最終章を読み終えた時、あ〜、これは、
強烈な「親子の物語」だったんだなと思い知らされる作品なんですよね。
親としての立場で読み進めても、子としての立場で読み進めても、
最後の着地点でホロっと感動、そして、記憶に残る物語として忘れられない小説になると思います。
第57回メフィスト賞受賞作、黒澤いづみのデビュー作、
『人間に向いてない』
タイトルと表紙のインパクトそのままに、強烈な「親子の物語」を読み進めてみてください。
あなたの記憶に残る1冊になるはずです。
歴代メフィスト賞の一覧
メフィスト賞は、株式会社講談社が発行する文芸雑誌「メフィスト」から生まれた公募文学新人賞です。
☆「究極のエンターテインメント」、「面白ければ何でもあり」という受け口の広い賞
☆未発表の小説を対象とした新人賞
☆対象となるジャンルに制限無し(ミステリー、ファンタジー、SF、伝記など様々)
☆明確な応募期間を設けていない
☆選考委員などはいなくて、「メフィスト」の編集者が下読みを介さず直接作品を読んで選考
☆既存の公募文学賞とは違い、持ち込みを制度化したような賞
☆創設当初から賞金は無し。受賞がそのまま出版に繋がるので印税が賞金代わり
☆最年少受賞者:浦賀和宏「記憶の果て」(1998年)ー19歳
☆最年長受賞者:丸山天寿「琅邪の鬼」(2010年)ー56歳
メフィスト賞は毎年1冊、という賞ではありません。
同じ年に数冊選ばれている事もあるので、「面白い作品に受賞させよう」と編集者が本気で選んでいるんでしょうね。
既存のお堅い文学賞より権威性は劣りますが、むしろこちら側、
一般人向けな賞ではないでしょうか。
そんなメフィスト賞、
歴代受賞作を一覧にしています。ここから有名になった作家さんも多数いらっしゃいます。
歴代メフィスト賞(1996〜1999年、第1回〜第10回)
年 | 回 | タイトル | 著者 |
1996年 | 第1回 | すべてがFになる | 森博嗣 |
第2回 | コズミック 世紀末探偵神話 | 清涼院流水 | |
1997年 | 第3回 | 六枚のとんかつ | 蘇部健一 |
1998年 | 第4回 | Jの神話 | 乾くるみ |
第5回 | 記憶の果て | 浦賀和宏 | |
第6回 | 歪んだ創世記 | 積木鏡介 | |
第7回 | 血塗られた神話 | 新堂冬樹 | |
第8回 | ダブ(エ)ストン街道 | 浅暮三文 | |
第9回 | QED 百人一首の呪 | 高田崇史 | |
1999年 | 第10回 | Kの流儀 フルコンタクト・ゲーム | 中島望 |
「すべてがFになる」の森博嗣、「Jの神話」の乾くるみ、
「記憶の果て」の浦賀和宏、「血塗られた神話」の新堂冬樹などがメフィスト賞受賞でデビューしています。
(正直に言いますと、私はこの方達しか知りません・・・)
歴代メフィスト賞(1999〜2001年、第11回〜第20回)
年 | 回 | タイトル | 著者 |
1999年 | 第11回 | 銀の檻を溶かして | 高里椎奈 |
第12回 | ドッペルゲンガー宮<あかずの扉>研究会流氷館へ | 霧舎巧 | |
第13回 | ハサミ男 | 殊能将之 | |
2000年 | 第14回 | UNKNOWN(アンノン) | 古処誠二 |
第15回 | 真っ暗な夜明け | 氷川透 | |
第16回 | ウェディング・ドレス | 黒田研二 | |
第17回 | 火蛾 | 古泉迦十 | |
第18回 | 日曜日の沈黙 | 石崎幸二 | |
2001年 | 第19回 | 煙か土か食い物 Smoke, Soil or Sacrifices | 舞城王太郎 |
第20回 | 月長石の魔犬 | 秋月涼介 |
大変申し訳ありませんが、私は誰も存じておりません。
歴代メフィスト賞(2001〜2004年、第21回〜第30回)
年 | 回 | タイトル | 著者 |
2001年 | 第21回 | フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人 | 佐藤友哉 |
第22回 | DOOMSDAYー審判の夜ー | 津村巧 | |
2002年 | 第23回 | クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い | 西尾維新 |
第24回 | 『クロック城』殺人事件 | 北山猛邦 | |
第25回 | それでも、警官は微笑う | 日明恩 | |
第26回 | 死都日本 | 石黒耀 | |
2003年 | 第27回 | フレームアウト | 生垣真太郎 |
第28回 | 蜜の森の凍える女神 | 関田涙 | |
第29回 | 空を見上げる古い歌を口ずさむ | 小路幸也 | |
2004年 | 第30回 | 極限推理コロシアム | 矢野龍王 |
「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言違い」の西尾維新がメフィスト賞受賞でデビューしています。
歴代メフィスト賞(2004〜2009年、第31回〜第40回)
年 | 回 | タイトル | 著者 |
2004年 | 第31回 | 冷たい校舎の時は止まる | 辻村深月 |
2005年 | 第32回 | 孤虫症 | 真梨幸子 |
第33回 | 黙過の代償 | 森山赳志 | |
2006年 | 第34回 | 少女は踊る暗い腹の中踊る | 岡崎隼人 |
2007年 | 第35回 | 天帝のはしたなき果実 | 古野まほろ |
第36回 | ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ! | 深水黎一郎 | |
2008年 | 第37回 | パラダイス・クローズド THANATOS | 汀こるもの |
第38回 | 掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南 | 輪渡颯介 | |
第39回 | マネーロード | 二郎遊真 | |
2009年 | 第40回 | 無貌伝 双児の子ら | 望月守宮 |
「冷たい校舎の時は止まる」の辻村深月、「孤虫症」の真梨幸子がメフィスト賞受賞でデビューしています。
歴代メフィスト賞(2009〜2014年、第41回〜第50回)
年 | 回 | タイトル | 著者 |
2009年 | 第41回 | 虫とりのうた | 赤星香一郎 |
第42回 | プールの底に眠る | 白河三兎 | |
2010年 | 第43回 | キョウカンカク | 天袮涼 |
第44回 | 琅邪の鬼 | 丸山天寿 | |
第45回 | 図書館の魔女 | 高田大介 | |
2012年 | 第46回 | 恋都の狐さん | 北夏輝 |
2013年 | 第47回 | 眼球堂の殺人〜The Book〜 | 周木律 |
第48回 | 愛の徴(しるし) ー天国の方角ー | 近本洋一 | |
2014年 | 第49回 | 渦巻く回廊の鎮魂曲(レクイエム) 霊媒探偵アーネスト | 風森章羽 |
第50回 | 〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件 | 早坂吝 |
・・・初めて知った作家さんばかりです。
歴代メフィスト賞(2015〜2020年、第51回〜第62回)
年 | 回 | タイトル | 著者 |
2015年 | 第51回 | 恋と禁忌の述語論理(プレディケット) | 井上真偽 |
2017年 | 第52回 | 誰かが見ている | 宮西真冬 |
第53回 | NO推理、NO探偵? | 柾木政宗 | |
第54回 | 毎年、記憶を失う彼女の救いかた | 望月拓海 | |
2018年 | 第55回 | 閻魔堂沙羅の推理奇譚 | 木元哉多 |
第56回 | コンビニなしでは生きられない | 秋保水菓 | |
第57回 | 人間に向いてない | 黒澤いづみ | |
第58回 | 異セカイ系 | 名倉編 | |
2019年 | 第59回 | 線は、僕を描く | 砥上裕將 |
第60回 | 絞首商曾 | 夕木春央 | |
2020年 | 第61回 | #柚莉愛とかくれんぼ | 真下みこと |
第62回 | 法廷遊戯 | 五十嵐律人 |
ここの作家さんも存じ上げませんでしたけど、今回、
『人間に向いてない』を読んだので、黒澤いづみさんはしっかりと覚えました。
第57回メフィスト賞を受賞してデビューした作家さんです。
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最後に
第57回メフィスト賞受賞作『人間に向いてない』、
黒澤いづみさんのデビュー作を紹介させて頂きました。
強烈な「親子の物語」、強烈な作品でしたね。
私のようなおじさん、歳をとると、あまり「ジャケ買い」なんて事はしなくなるんですけど、
この作品はまさにその「ジャケ買い」をした久しぶりの1冊となりました。
良かったですよ、読んだことを後悔させられなくて。
最後まで集中力を保ちながら読み進められましたしね。
世間一般ではそこまで有名ではないメフィスト賞、権威性もあまり感じない賞なんでしょうが、
1度、受賞作を読んでみるのも面白い!、
そう思わせてくれた『人間に向いてない』。
あなたも1度、体験してみてください。多分、新しい発見になるのではないかと。
ではまた。
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