久坂部羊の『祝葬』連作短編集、現役医師が問う「長生きは幸せか?」
「長生きしたな〜」と思える年齢は何歳ぐらいなんでしょうか?
厚生労働省のまとめによりますと、
日本人の平均寿命は年々伸びていっています。
厚生労働省による平均寿命(2019年)
・男性 81.41歳(8年連続増加)
・女性 87.45歳(7年連続増加)
この平均寿命を超えていれば、「長生きしたな〜」と思えますかね?
人生100年という「超高齢化社会」も目の前までやってきています。
100歳まで、とは言わないまでも、
せめて平均寿命ぐらいは長生きしたいなと考えるのが、今の正直な気持ちです。
ただ、ちょっと条件付きな部分もありますよね?
頭がしっかりしていて、動けて、身の回りの事を自分で・・・、そして長生き。
この条件に当てはまれば、何歳まででも生きていたい・・・。
じゃあ、当てはまらなかったら・・・。
現役の医師・久坂部羊が描く「超高齢化社会」。
「どんな状態でも、長生きは幸せな事だと言えますか?」
と問われているような物語。
『祝葬』
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久坂部羊『祝葬』のあらすじと感想
『祝葬』久坂部羊
『祝葬』あらすじ
「もし、君が僕の葬式に来てくれるようなことになったら、
その時は僕を祝福してくれ」
37歳の若き医師・土岐佑介は、
自分の死を暗示するような謎の言葉を遺し、その若さで急死した。
代々医師の家系に生まれた佑介は、
生前、自分たち一族には「早死にの呪い」がかけられていると語っていた。
55歳・肝硬変
50歳・溺死
52歳・肺がん
52歳・滑落死
45歳・敗血症
49歳・胃がん
佑介37歳・急死
代々医師の家系を継いできた土岐一族に脈々と流れている血、
「早死にの呪い」
彼らの死は避けられない運命だったのか?
その運命を跳ね除け、長生きさえすれば確実に幸せになれるのか?
超高齢化社会が目の前までやってきているこの現代に突きつけられる、
「長生きは本当に幸せなのか?」
〜『祝葬』〜
現役医師・久坂部羊の『祝葬』は、
5つの短編から連なる1つの物語です。
(祝葬・真令子・ミンナ死ヌノダ・希望の御旗・忌寿、の5篇)
「長生きは本当に幸せなのか?」
その問いに答えられる年齢に私はまだ、たどり着いていませんでした・・・。
『祝葬』を読んだ方達の感想
医療の現場で、誰もが一度は感じるであろう葛藤を、より誇張して描いた作品です。
著者が医師であるからか、医療小説にしばしばみられる現実離れした設定が無い点が良かったです。
良質な佳作。
素直に面白かったです。死をめぐる物語が医師ならではの視点で皮肉たっぷりに描かれています。
読んで思うのは、人間の業の深さ。
読後感は決して良くありません。
それでも、この物語を読んだ事で新たな知見を得られた気分になる作品ですね。
ずっとこの作者の作品を読み続けてきて完全に影響され、もしガンになっても無理な治療はしないでおこうと、
思うようになってしまいました・・・。
高齢化が進んでいる今、考えさせられる問題だと思いました。医師の一族の話であり、医療行為に対しての問題提起でもあると思います。
必要以上に生かされてしまっているのが良いのか悪いのか、
考えてしまいますね。
おじさんの感想
現役医師である久坂部羊の医療小説は、
妙に好きなもので、文庫化されれば必ず読んでいます。
今作『祝葬』も何も考えずに購入して読み始めました。
ここ最近読んだ久坂部羊の文庫は、ほぼブラックユーモアよりな物語でしたので、
結構楽しく読み進められた作品ばかりでしたけど、
この『祝葬』はちょっと違った感じでしたね。
面白い医療小説というより、
「ちょっと考えてみなよ。ね、答えなんか無いでしょ」
と言われているような感じを受ける、少し嫌な話でした。
冒頭にも書いたんですが、
この小説を読むと、「長生き」するのは悪い事ではないけど条件付き。
こんな思いになってしまいます。
「自分がいい時に、苦しむことなく死を迎えられるのなら最高。
でも、そんな上手いこといかないんだろうな〜。
イヤだな〜。」
今考えたって答えが出ないことを、
妙に考えさせられるのがこの『祝葬』です。
医療が進歩して寿命がさらに伸びても、
そこに付随して暗い側面も同時に忍び寄ってきている、そんな読後感を残してくれます。
良いのか悪いのか分かりませんけどね。
ただ、強烈に考えてしまうのは事実です。
「長生きは本当に幸せなのか?」
私は答えを出せませんでした。あなたならどんな答えを導きだしますか?
久坂部羊のオススメ小説
久坂部羊(1955年7月3日〜)は、
日本の小説家、推理作家、医師です。
個人的な久坂部羊オススメ小説は、
久坂部羊のオススメ小説 |
「カネと共に去りぬ」 (7つの名作を医療小説に変身させた短編集) |
「黒医」 (黒い医者、黒い医療、7つの短編集) |
「告知」 (在宅医療の世界を描いた壮絶な現実) |
「テロリストの処方」 (勝ち負けで医療界が二極化、その中で起こった勝ち組医師を狙ったテロ事件) |
「院長選挙」 (大学病院内で行われる権力闘争コントの数々) |
「無痛」 (テレビドラマにもなったミステリー小説) |
医療小説をブラックユーモアたっぷりに読みたいのなら、
「カネと共に去りぬ」、「黒医」、「院長選挙」あたりがオススメです。
ミステリー要素を含んだ医療小説なら、
「テロリストの処方」、「無痛」。
リアルな在宅医療の現場を知りたいのなら、
「告知」。
現役の医師・久坂部羊だからこそ書ける物語ばかりです。
読後感が明るくなるような物語は少ないですけど、
読み応えはバッチリな医療小説ばかりですから、読んでいない方は是非1度、
久坂部羊の小説に触れてみてください。
最後に
現役の医師・久坂部羊の『祝葬』を紹介させて頂きました。
妙に考えさせられる物語で、
読後感もあまり良いものではありませんでしたけど、
読み応えのある小説だったことは間違いありません。
現役の医師が描く医療や医師のあり方、患者に対する思いなど、
否定できない強烈な言葉の数々、
完全に納得するのもどうかと思いながら、読み進めるのを止められませんでしたね。
面白い医療小説です、とはオススメできませんが、
「ちょっとだけ考えてみてはいかがでしょう?」系の医療小説としては、
オススメできる物語です。
久坂部羊の『祝葬』からの問い、
「長生きは本当に幸せか?」
あなたの答えは・・・。
ではまた。