中山七里の『翼がなくても』、ハンデを背負った女性アスリートの復活劇
前回読んだ中山七里作品が、
「ワルツを踊ろう」でしたので、
今回の『翼がなくても』は面食らいました。
「ワルツを踊ろう」は、
1人の男が闇に取り込まれて踊り狂う作品。
今作『翼がなくても』は、
1人の女性アスリートがどん底から這い上がる復活劇。
この落差、
同じ作者とは思えない作品でしたね。
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女性アスリートの復活劇『翼がなくても』
『翼がなくても』 中山七里
『翼がなくても』あらすじ
陸上200メートル走でオリンピックを狙うアスリート、
市ノ瀬沙良。
実業団に所属し、オリンピックを目指して日々練習を重ねていた。
そんなある日、
沙良を悲劇が襲う。
まるでスローモーションを見ているかのような時間感覚の中で、
沙良は交通事故に遭う。
命は助かったが、
大事な、大事な翼を1つ、失う事に・・・。
夢であり、沙良の全てだったオリンピック、そして、
ランナーとしての存在。
片方の翼を失った沙良にとって、それらは絶望に等しい。
「もう・・・私は・・・走れない・・・」
そして沙良は、
新しい翼に出会う。
もう1度ランナーに戻れる翼に。
〜『翼がなくても』〜
・市ノ瀬沙良(いちのせさら)
高校インターハイで優勝をするほどの200メートル走実力者、沙良。
西端化成からスカウトされて、実業団の一員に。
社会人2年目となって、記録も徐々に伸び、
いよいよオリンピックを狙える位置まで実力を伸ばしていました。
そんなある日、沙良は交通事故に遭ってしまいます。
片脚を切断するほどの大怪我、
命は助かりましたけど、沙良にとっては、生き続ける事よりもツライ現実です。
翼を1つもがれてしまいます。
その翼をもがいた張本人が、
幼馴染の相楽泰輔(さがらたいすけ)。
沙良とは幼稚園からの幼馴染で、中学生頃までは仲の良い2人でしたけど、
父親の自殺をうけて、泰輔は引きこもるように。
そんな泰輔の唯一の息抜きが、
母親の車を借りてドライブする事。
そして、沙良の片方の翼を奪ってしまいます。
自暴自棄になり、
暗闇の中を歩き続けていた沙良の元に警察がやって来ます。
「相楽泰輔が殺された」
容疑者になるのに十分すぎる理由を持っている沙良は、
警察に疑われる理由も十分に持っています。
交通事故、翼を奪われ、自暴自棄、殺人事件、
周りの環境が目まぐるしく流れていく中で、
沙良は、
新たな翼を見つけます。もう1度、風を感じつつ走れる翼を。
夢を奪われた女性アスリートは、
ふたたび羽ばたけるのか!?
どんでん返しの先に待つ、
涙のラスト!
あまりに切ないミステリー
中山七里の『翼がなくても』、
ハンデを背負った女性アスリートの復活劇です。
『翼がなくても』を読んだ方達のレビューを、紹介します
一気に読了。
スプリンターとしての走りの臨場感。風を感じて駆け抜ける様は、ハラハラドキドキさせられます。
アスリートの意識の高さとか、障害者スポーツの壁に気付かされました。
もっと障害者スポーツが、メジャーになるといいのに。
御子柴先生も案の定大活躍!
最後はホロリとさせられましたね。
展開は読めがちですけど、
トラックを駆け抜ける時の風とか、ピーンと張り詰めた緊張感とか、
主人公の感情に共鳴できて、読んでいて楽しかったです。
走るのではなく、羽が生えているように跳ぶんです!
障害者だろうと、やれる事を全力でやっているのは見ていて感動します。
けど確かに、パラリンピックを見る時は、どうしても色眼鏡で見てしまうのも仕方ありません。
直に接しないと分からない事ばかりです。
あと、ミステリー要素がありましたけど、正直、無くても良かったですね。
御子柴弁護士と犬養刑事が登場。御子柴が登場した時点で、どんでん返しは想定できますね。
多作の中山七里さんなら、それほど時間をかけずに書いた小説と思われます。
とは言え、障害者アスリートの世界を興味深く描いています。
義足も厚底シューズも、技術の進歩が凄いですね。
『翼がなくても』を読んだおじさんの感想
・『翼がなくても』を読んだおじさんの感想
(背中を押してくれるような感覚になる物語)
イヤミス小説「ワルツを踊ろう」からの、
女性アスリートの復活劇『翼がなくても』という流れは、
間にもう1つぐらい、そこそこのミステリーを挟んでおけば良かったなと、
思わずにはいられませんでした。
同じ著者とは思えないほどの落差が凄かったので。
『翼がなくても』は、
片方の翼を失った女性アスリートが、ランナー用に特化した義足と出会って、
走る喜びと、新たな目標(パラリンピック)を目指していく、
いわば、ちょっとしたスポ根を感じてしまうミステリー小説です。
どん底から這い上がっていく様と、
幼馴染の殺人事件を絡ませたミステリー。
いつも通り、中山七里の作品は読みやすいし、どんどん読み進めてしまう小説です。
来年のパラリンピックを盛り上げよう、とか、
もっとパラリンピックを注目して欲しい、とか、
そういったメッセージがあるとは思えません。むしろ、
パラリンピックを目指しているアスリートの方達も、
オリンピックを目指しているアスリートの方達同様、プロ意識を持った選手であり、
過酷な競争意識の中で戦っている戦士なんですね。
コンマ1秒で世界がガラッと変わってしまう、同じ世界の住人なんです。
そこに情けや優しさ、悲壮感を持って私たちを応援しないで!私たちは戦士よ!
と、強烈に言われているような感じを受けてしまいました。
市ノ瀬沙良が這い上がっていく様は、まさにそんな力強さを見せてくれます。
もちろん、中山七里らしく、感動させるラストと、
殺人事件の真相で、少し悲しくなるミステリーを堪能できる小説となっています。
ただのスポ根ではありません。
本物のアスリートが体験する挫折と復活、そこに見る強烈なプロ意識。
五体満足のおじさん、まだ戦えるんじゃないの?
そう、市ノ瀬沙良に言われている気になってしまった小説です。
なぜか、背中を押されている感じを受けましたね。
『翼がなくても』に登場するいつものキャラクター
中山七里の『翼がなくても』、
中山七里作品を読んできたファンにはお馴染みのキャラクターが登場します。
悪魔の弁護人でお馴染み、御子柴礼司。
発行年 | 発行元 | タイトル |
2013年11月 | 講談社文庫 | 贖罪の奏鳴曲 |
2016年3月 | 追憶の夜想曲 | |
2018年4月 | 恩讐の鎮魂曲 | |
2019年11月 | 悪徳の輪舞曲 |
・御子柴礼司(みこしばれいじ)
高額な弁護報酬を請求できる相手しか弁護しない、と、悪名が轟いている弁護士。
能力はピカイチですけど、癖が強すぎる御子柴。
『翼がなくても』に登場です。
「野郎の嘘を見抜く名人」と言われる、警視庁捜査一課の犬養隼人。
発行年 | 発行元 | タイトル |
2014年12月 | 角川文庫 | 切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人 |
2015年1月 | 七色の毒 刑事犬養隼人 | |
2017年5月 | ハーメルンの誘拐魔 刑事犬養隼人 | |
2019年2月 | ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人 |
・犬養隼人(いぬかいはやと)
目や唇の動きを見ただけで、嘘を見抜く鋭い観察眼を持つ刑事。
『翼がなくても』で、
沙良の幼馴染、相楽太輔殺人事件で捜査を担当することになります。
この「刑事犬養隼人シリーズ」は、
2015年、朝日放送の制作により、テレビ朝日系でドラマ化され、
主人公・犬養隼人を沢村一樹が演じています。
ドラマシリーズ第2弾は、2016年9月に放送されました。
中山七里作品でお馴染みのキャラクター、
御子柴礼司と犬養隼人が登場する『翼がなくても』、
ファンなら読んでおいて損はありません。
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⇨【文庫本で読む】中山七里のおすすめ小説11選/シリーズもの、胸糞、痛快エンタメあり
最後に
ハンデを背負った女性アスリートの復活劇、
中山七里の『翼がなくても』を紹介させて頂きました。
ミステリー色はそこまで強くありませんけど、
しっかりと読ませる作品になっていると思います。
読後感も、
むしろ、清々しい感じを受けますしね。
アスリートの世界は、どんな世界でも、過酷で厳しい。
プロの世界は想像を絶します。半端じゃないです。
プロのアスリートが持ち続けている力と、
人間がどん底から這い上がれる力を持っているという事を、
『翼がなくても』から教わった気がしますね。
ではまた。