「本屋大賞」ノミネート作で「殺し屋シリーズ」第3作目、伊坂幸太郎の『AX アックス』
2018年の本屋大賞にノミネートされて、
順位は10位中5位という成績だった作品です。
伊坂幸太郎の作品群の中で、
一切ハズレのないシリーズ「殺し屋シリーズ」の第3作目『AX アックス』。
「殺し屋」が主人公と聞いただけだと、
物騒でエグイシーン満載な物語を想像してしまいがちですけど、
「伊坂幸太郎」というフィルターを通して描かれた作品です。
ただの物騒なお話が連続している物語にはなりません。
「殺し屋」が主人公なのに、「家族愛」を存分に感じられる作品となっています。
「本屋大賞」ノミネート作『AX アックス』
『AX アックス』伊坂幸太郎
『AX アックス』あらすじ
その世界では名の知られた超一流の殺し屋「兜(かぶと)」。
殺し屋としては想像し難いが、
妻と一人息子の克己(かつみ)と暮らしている「家族愛」に溢れた男。
家族を大事にしつつ、自分の本当の仕事を隠して生活していた。
そして、愛する妻には一切頭が上がらない「恐妻家」。
「超一流の殺し屋」
「家族愛」と「恐妻家」
「一人息子」
兜は殺し屋稼業を辞めたいと考え始める。
この仕事を辞めるには、殺し屋を引退するには莫大なお金が必要。
イヤイヤながらも、兜は仕事依頼を引き受けつつ、お金を稼ぎ、
ひたすらに引退しようともがく。
「超一流の殺し屋」なんて肩書きと、「兜」という名前はいらない。
「恐妻家」だろうとなんだろうと、愛する妻がいて、
「一人息子」の克己の将来が輝いていれば、それでいい。
超一流の殺し屋から、ただただ強烈な「家族愛」を持った、
「最強の父親」になる物語。〜『AX アックス』〜
「殺し屋シリーズ」の第3作目、
「グラスホッパー」、「マリアビートル」に続く『AX アックス』。
ですが、続編という訳ではありません。繋がりを感じられる作りではありますが。
繋がりというのは、
前2作で登場していた「殺し屋」を今作でも感じられるという事です。
ガッツリと登場する訳ではないんですけどね。
そして今作『AX アックス』、
前2作と比べると色合いがかなり違う物語となっています。
「殺し屋の物語」、これは間違いありませんが、
ワクワクハラハラする物語というより、「殺し屋視点と父親視点が融合した強烈な家族愛」、
そんな物語です。
前2作を読んでいなくても十分楽しめる物語と言えますけど、
できたら「グラスホッパー」と「マリアビートル」を読んだ後に『AX アックス』に取り掛かる、
これが最良だと、個人的には思っています。
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『AX アックス』を読んだ方達の感想を、紹介します
伊坂幸太郎を読んだのは、かれこれ7年ぶりぐらいです。
そんな中で、マリアビートルの登場人物と思わぬ形で再開できるという粋な計らいに感謝ですね。
物騒な設定ながら、家族の温かみと人間の多面性について感じさせられる作品でした。
グラスホッパーは映画で観て、マリアビートルは読んでいませんでしたが、素直に楽しめた作品です。
連作短編集のような構成で、一つ一つの話にいい感じでオチがついていて、一編ごとの読後感はとても素晴らしかったです。
その良さから、読み止めるタイミングを見失って、気が付けば1日で読了していました。
1つの本を1日で読み切ったのは初めてだったので、時間を忘れて読み進めるくらいに面白い作品ですね。
久しぶりの伊坂幸太郎さん。面白くて吹き出しそうになったり、ハラハラしたり、感動したりと、読むだけで感情がオーバーヒートしそうになる充実感のある本でした。
とっても面白かったです!
「最高傑作」と書棚にあって手に取った一冊です。
なんだか憎めない殺し屋で恐妻家の兜と、
その家族の物語。
はじめは兜の視点がピンと来ず(奥さんに怖がりすぎ・・w)だったけれど、中盤からの展開には驚きました。
人には優しくするものだ、そして家族って良いですよね。
自分たちと少し違う目線で生きている主人公を描く、伊坂さんらしい伏線の数々が張り巡らされていた物語です。
『AX アックス』を読んだおじさんの感想
「殺し屋シリーズ」として第3作目となる今作『AX アックス』、
前作の「マリアビートル」がかなり面白かったので、ハードルが大分上がった状態での読書となりました。
痛快なエンターテイメント性抜群な物語を期待してしまうと、多少面食らいますけど、
新たな「殺し屋シリーズ」として存分に楽しめた作品でした。
魅力的な殺し屋を生み出す能力が異常に高い作家が、
そこにプラスして、不思議な魅力に溢れている父親像をミックスさせると、
こんな物語になる、
そう感じてしまいましたね。
「超一流の殺し屋」だけど、家では妻に頭が上がらない「恐妻家」。
「妻と一人息子」を大事にする父親だけど、「超一流の殺し屋」。
そんな「家族思いの父親」の面と、「殺し屋」という裏稼業をこなしてく面を併せ持っている兜。
そして、
「最強の父親」となっていく物語です。
「マリアビートル」の読後感とは全く違う好印象で終わる『AX アックス』。
極端にいうと、
「マリアビートル」の読後感が「スッキリ!」だとすると、
『AX アックス』の読後感は「ポカポカしながらホッコリ」、です。
もちろん、
伏線回収能力も異常に高い伊坂幸太郎ですので、
「スッキリ感」を持ちつつの「ポカポカしながらホッコリ」。
「殺し屋シリーズ」なんて言葉だけを見ると物騒な感じを受けますが、
なんだか良い気持ちで読み終える事ができる物語、
伊坂幸太郎の『AX アックス』、
「超一流の殺し屋」から「最強の父親」となる兜、堪能してみてください。
伊坂幸太郎の「殺し屋シリーズ」
伊坂幸太郎の「殺し屋シリーズ」、今までに3作品が発表されています。
発行年 | 発行元 | タイトル |
2007年6月 | 角川文庫 | グラスホッパー |
2013年9月 | マリアビートル | |
2002年2月 | AX アックス |
どの作品も映像化できそうな物語、
今のところ映画化されているのは1本だけです。
2007年6月に文庫化されている「グラスホッパー」のみが映画となっています。
「グラスホッパー」
監督 | 滝本智行 |
出演(役名) | 生田斗真(鈴木) |
浅野忠信(鯨:くじら) | |
山田涼介(蝉:せみ) | |
波瑠(百合子:鈴木の婚約者) | |
麻生久美子(すみれ) | |
吉岡秀隆(槿:あさがお) | |
菜々緒(比与子) | |
村上淳(岩西) | |
日本公開 | 2015年11月7日 |
残念ながら私は観たことがないので、なんとも言い難いのですが、
レビューを調べてみると、評判は上々な作品のようです。
・第25回日本映画批評家大賞(2015年度)、新人男優賞(南俊子賞)を、
山田涼介が受賞しています。
この「グラスホッパー」の完全な続編ではありませんけど、
2013年9月に文庫化されている「マリアビートル」、こちらも映像向きな小説と言える作品です。
新幹線内で繰り広げられる「殺し屋たちの宴」ですから。
多分、中学生がキーマンになっていますので、色々と難しい部分があるんでしょうね。
「グラスホッパー」、「マリアビートル」と続いてきた「殺し屋シリーズ」の最新作、
『AX アックス』も映像化されてもおかしくない作品です。
「家族愛を描きつつ、不思議な殺し屋たちの宴」として最適なのではないか、
そんな風に思ってしまいます。
伊坂幸太郎の作品は、映像化されている作品も多いですが、
本屋大賞との関連も深いものとなっています。
「本屋大賞」にノミネートされた過去の作品
2004年から始まっている「本屋大賞」、
この第1回目から伊坂幸太郎の作品は良くノミネートされてきました。
本屋大賞 | 順位 | タイトル |
第1回本屋大賞(2004年) | 3位 | アヒルと鴨のコインロッカー |
5位 | 重力ピエロ | |
第2回本屋大賞(2005年) | 5位 | チルドレン |
第3回本屋大賞(2006年) | 3位 | 死神の精度 |
11位 | 魔王 | |
第4回本屋大賞(2007年) | 4位 | 終末のフール |
第5回本屋大賞(2008年) | 1位(大賞) | ゴールデンスランバー |
第6回本屋大賞(2009年) | 10位 | モダンタイムス |
第12回本屋大賞(2015年) | 8位 | キャプテンサンダーボルト |
9位 | アイネクライネナハトムジーク | |
第15回本屋大賞(2018年) | 5位 | AX アックス |
第16回本屋大賞(2019年) | 10位 | フーガはユーガ |
「本屋大賞」は2004年から始まっていますので、
そこまで歴史のある賞レースではありませんけど、読者よりの賞としては最適な賞だと思います。
選んでいるのは、うるさい批評家の方達ではなく、書店員。
基準が「面白かったかどうか、お客様にオススメしたい!、自分の店で売りたい!」
読者にとって一番大事なのが、モロこれ!、ですからね。
そんな書店員の方達から絶賛をされているのが、伊坂幸太郎の作品です。
全16回の中で12作がノミネートされ、
私もある場面で号泣してしまった「ゴールデンスランバー」が第5回本屋大賞を受賞。
小説を読んで、あんなに泣いてしまったのは、後にも先にもこの1冊だけです。
大賞受賞が1作だけなのは寂しい感じを受けますけど、
まだまだこれからの「本屋大賞」ですので、またそのうち伊坂幸太郎がチャンピオンになるであろう、
と、何の疑いもなく思ってしまう作家さん。
伊坂幸太郎って凄いですよね。読者を飽きさせません。
ちなみに、
「本屋大賞」で2回、大賞を受賞しているのは1人だけ。
第2回本屋大賞(2005年)の「夜のピクニック」と、
第14回本屋大賞(2017年)の「蜜蜂と遠雷」の恩田陸さんだけです。
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最後に
第15回本屋大賞(2018年)で5位、
「殺し屋シリーズ」の第3作目、伊坂幸太郎の『AX アックス』を紹介させて頂きました。
極端にハズレの少ない作家が描いている「殺し屋の物語」です。
万人に大受け!
とは言いませんけど、読んでおいて損は無い!
こう断言できる作品なのは間違いありません。
上にも書きましたが、
できるなら「グラスホッパー」、「マリアビートル」を読んだ後に、
『AX アックス』に取り掛かって欲しいなと。
「殺し屋シリーズ」3作全て、単体でも十分楽しめるんですけどね。
さらに楽しむためだけに、
「グラスホッパー」、「マリアビートル」、『AX アックス』、
3作全てを網羅しておく。
良い時間になると思います。
ではまた。
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